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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年3月19日07時35分 福井県越前岬沖 2 船舶の要目 船種船名
漁船大勢丸 総トン数 14トン 登録長 14.95メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力
301キロワット(定格出力) 回転数
毎分2,000(定格回転数) 3 事実の経過 大勢丸は昭和52年に進水したFRP製漁船で、同63年5月に主機を換装し、昭和精機工業株式会社が同年に製造した、6KH-ST型と称するセルモータ始動のディーゼル機関を装備し、操舵室に主機の遠隔操縦装置及び計器盤を備え、発停を含むすべての運転操作が同室で行わわれるようになっていた。 主機は、各シリンダが船首側から順番号で呼称され、動力取出軸で船内電源用発電機ほか、甲板補機用油圧ポンプ等を駆動できるようになっていた。また主機の冷却は、間接冷却方式で、循環水量約44リットルの清水が、清水冷却器を兼ねる清水タンクから直結の冷却清水ポンプで吸引され、入口主管で分岐して各シリンダのシリンダジャケットを冷却し、出口集合管で合流したうえ同タンクに戻って循環する一方、船底の海水吸入弁から直結の冷却海水ポンプで吸引された海水が、清水冷却器を通って空気冷却器で反転し、再び清水冷却器を経て温度調整弁、潤滑油冷却器及び逆転減速機を通り、各部を順に冷却したのち船外排出口から排出されるようになっていた。 なお、操舵室の主機計器盤には、回転計、潤滑油圧力計、冷却清水温度計等の電気計器及びセルモータスイッチのほか、警報装置が組み込まれていて潤滑油圧力低下や冷却清水温度上昇等の際、警報ブザーが鳴るとともに赤ランプが点灯して異状要因を表示するようになっており、うち冷却清水温度については、通常出口集合管で摂氏70度前後のところ、同95度に上昇すると同装置が作動するよう設定されていた。また同計器盤には警報ブザー停止用のトグルスイッチが設けてあり、計器盤電源スイッチは機関室の配電盤に設置されていた。 本船は、福井県越前漁港を基地として毎年かに漁が解禁となる11月初旬から翌年3月20日ごろまでの期間、越前岬沖合で小型底引網漁業に従事したのち、漁具の換装及び船体整備等を行ったうえ、4月20日前後から10月10日ごろまで、若狭湾から北海道にかけての海域でいか釣り漁業に従事していたもので、機関整備については2年ごとをめどに、地元の鉄工所に依頼して主機のピストン抜き整備等を行っていたほか、不具合が生じたときは同鉄工所と相談して対処するようにしており、平成6年10月下旬同整備を行って操業に従事していた。 A受審人は、本船進水時から船長として乗り組み、機関の運転管理も1人で担当しており、主機の監視については、出港後は機関室の点検に入ることはほとんどなく、操船中たまに計器盤の計器類を確認する程度であり、また操業中は操舵室を離れて甲板作業を手伝うことが多かったので、警報装置が正常に作動するよう整備しておく必要があった。ところが同人は、同7年3月ごろ電気回路の故障で、同装置の電源スイッチを投入すると主機に異状がないにもかかわらず警報ブザーが鳴るようになった際、そのうち直せばよいと思い、早期に修理業者に連絡して修理させることなく、停止スイッチで同ブザーを切ったままとして出漁を繰り返していた。 A受審人は、休漁期間にも依然警報装置を修理せずに、同年11月から底引網漁業に従事するうち、清水冷却器等の主機熱交換器の冷却海水入口側が、海水中のごみや海藻等で詰まり始め、翌8年3月ごろ航行中船外排出口からの主機冷却海水排水量が減少していることを認めたが、海水温度が低く冷却清水温度が警報値まで上昇していなかったこともあり、かに漁の漁期終了後に主機開放整備とともに冷却海水ポンプのゴムインペラを点検させるつもりで、主機の運転を続けていた。 こうして本船は、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、同3月19日00時ごろ越前漁港を発し、越前岬沖合約8海里の漁場に至って操業を開始した。07時30分ごろ本船は、主機のクラッチを切って回転数毎分1,000にかけ、動力取出軸で油圧ポンプを運転し、乗組員全員が甲板に出て3回目の揚網中、ビニール袋等の海中浮遊物を吸引して船底の冷却海水吸入口が塞(ふさ)がれ、過熱気味であった主機の冷却が急速に阻害されて警報装置が作動したが、ブザーが鳴らないままシリンダライナや主軸受等にかき傷が発生し、07時35分越前岬灯台から真方位266度6.6海里の地点で、主機の回転数が変動した。 当時、天候は曇で風はほとんどなく、海上は穏やかであった。 甲板上で揚網作業に従事していたA受審人は、揚網機の回転異状に気付いで油圧ポンプの点検に赴く途中、操舵室をのぞいて主機の回転が変動しているのを認め、急いで主機を停止したうえ地元鉄工所と連絡をとり、燃料フィルタを点検するよう告げられた。しばらくして同人は、機関室に降りて同フィルタを開放し、かなり汚れていたのでエレメントを新替えしたのち、操舵室で主機を始動したところ、この間に海水吸入口に吸引されていた浮遊物が脱落していて始動に成功し、回転数も変動する様子がなかったので、同機の冷却が一時的に阻害されたことを知らないまま操業を再開し、翌々21日01時ごろ越前漁港に帰港した。 同日から休漁期に入った本船は、4月上旬定期整備の目的で地元鉄工所に依頼して主機を開放したところ、1、2、5及び6番シリンダの各ピストン及びシリンダライナ、2番シリンダの主軸受及びクランクジャーナル部等が、焼き付くまでには至っていないものの、焼損していて継続使用不能と判断され、のち主機は、損傷部品をすべて新替えしたほか警報装置を修理し、熱交換器類を掃除して修理された。
(原因) 本件機関損傷は、主機警報装置の整備が不十分で、乗組員全員が甲板上で揚網作業中、冷却海水管系の閉塞により冷却清水温度が上昇した際、警報ブザーが吹鳴せず、過熱するまま主機の運転が続けられたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、主機の運転管理にあたり、警報装置の故障を認めた場合、操業中操舵室を離れて甲板作業に従事することが多かったから、同機に異状が発生すれば直ちに察知できるよう、早期に修理業者に連絡して同装置を修理させるべき注意義務があった。ところが、同人は、そのうち直せばよいと思い、早期に修理業者に連絡して警報装置を修理させなかった職務上の過失により、主機の冷却が阻害されていることに気付かないまま運転を続け、同機のピストン及びシリンダライナ等を焼損させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |