|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成6年5月29日09時00分 富山県魚津港 2 船舶の要目 船種船名
漁船第8栄進丸 総トン数 19.05トン 登録長 18.01メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 191キロワット(定格出力) 3 事実の経過 第8栄進丸は、昭和47年に進水し、いか釣り漁業及びかに篭縄(かごなわ)漁業に使用されたのち、平成3年から篭縄漁業専門に周年従事するようになったFRP製漁船で、主機として、久保田鉄工株式会社製のM6D16DS型と称するディーゼル機関を装備していた。また同船は、発電機として、主機によって駆動される、航海灯及び無線用の10キロワット直流発電機1台と、いか集魚灯用300キロボルトアンペア及び船内電源用10キロボルトアンペアの交流発電機各1台のほか、操業中や水揚げ作業中、同船内電源用発電機に代えて運転される、ディーゼル機関(以下「補機」という。)駆動の225ボルト30キロボルトアンペアの交流発電機1台を、それぞれ備えていた。 補機は、ヤンマーディーゼル株式会社製造の3SML型と称する、定格出力27キロワット同回転数毎分1,800の3シリンダ無過給機関で、機関室後部左舷側の燃料タンクの前方に側壁に沿って据え付けられ、共通台板上船首側の発電機とフライホイールで互いに連結し、各シリンダには発電機側から1番から3番までの番号が付されていた。 補機の潤滑油系統は、容量20リットルのクランク室底部油だめから、こし網を介して機関船尾右舷側に位置する直結の歯車式ポンプで吸引された同油が、取付け金具を用いて架構後壁の上部にボルト止めされた潤滑油フィルタと、クランク室左舷側に設置された潤滑油冷却器を順に経て入口主管に至り、各シリンダの主軸受、クランクピン軸受及び弁腕軸受等を潤滑したうえ、油だめに落下して循環するようになっていた。 潤滑油フィルタは、ケースカバー上部に設けたクリーニングハンドルを手動で回転させることにより、内部のフィルタエレメント表面に付着したスラッジをかき落とし、ケース底部のドレンプラグから排出できるようになったオートクリーン式のもので、出口及び入口管には、いずれも直径12ミリメートル(以下「ミリ」という。)の銅管を使用し、それぞれ先端に溶接された管継ぎ輪が、前後両側の銅パッキンとともに、ねじ部の呼び径18ミリ有効長さ17ミリの管継手ボルトで、ケースカバー前後側面に出口管を船首側にして取り付けられていた。 ところで本船は、航行中の振動が大きく、平成5年7月補機運転中に、潤滑油ポンプ吐出管のフランジ溶接部に亀裂(きれつ)が発生し、潤滑油が流出してクランク軸等を焼損する事故を経験していた。 A受審人は、本船新造時から機関長として乗り組み、1人で機関の運転管理にあたり、補機については、ほぼ3日ごとに潤滑油量を点検していたほか、潤滑油フィルタはクリーニングハンドルを利用せずに、2箇月に1度程度ケースカバーからケースを取り外し、内部のフィルタエレメントを取り出して掃除するようにしていた。ところが同人は、補機設置場所が床プレートから天井までの高さ1メートルばかりであったうえ、潤滑油管が同機船尾側から左舷側にかけて、燃料タンク及び側壁に制限された狭い場所に配管されていたこともあり、運転中同系統に漏洩(ろうえい)箇所がないか点検していなかった。 本船は、A受審人ほか3人が乗り組み、操業の目的で、平成6年5月27日11時富山県魚津港を発し、禄剛埼沖合の漁場に至って補機駆動発電機に切り替えたうえ操業を開始したところ、振動で緩みが生じていた潤滑油フィルタ出口管の管継手ボルトから同油が漏洩し始めたが、A受審人がこのことに気付かないまま操業を続け、翌28日21時ごろ操業を終えて29日03時ごろ魚津港に帰港した。 こうして本船は、同港北港4号岸壁北側に左舷付けで係留し、補機を運転して水揚げののち、同日08時30分ごろから、資材等の購入のため乗組員全員が近くの漁業協同組合に出かけ、補機を運転したまま船内を無人としているうち、管継手ボルトから潤滑油が漏洩し続け、同油が不足して補機の各軸受が焼損し、09時00分魚津港北区北防波堤灯台から真方位080度185メートルの係留地点で、帰船したA受審人が補機が停止していることを発見した。 当時、天候は晴で風力2の南風が吹き、港内は穏やかであった。 A受審人は、潤滑油漏洩箇所が計器盤の陰になっていて気付かなかったものの、補機が過熱してターニングできず、検油棒にも油が付着しないので軸受が焼損したものと認め、地元の鉄工所に連絡して調査したところ、クランク軸、全主軸受、クランクピン軸受2個、1番シリンダのクランクピン及び連接棒等が焼損していることが判明し、損傷部品を新替えし、クランク軸を中古品と取り替えて修理したが、その後の運転が不調続きであったことから、のち、点検が少しでも容易になるよう据え付け台板を船首側やや右舷寄りに移設し、補機を換装した。
(原因) 本件機関損傷は、補機運転中、潤滑油配管系統の点検が不十分で、緩みが生じた同油フィルタ出口管の管継手ボルトから、潤滑油が漏洩するまま運転が続けられたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、補機の運転管理にあたる場合、潤滑油配管系統から同油が漏洩すると補機が損傷するおそれがあったから、運転中同系統に漏洩箇所がないか十分点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、潤滑油管が狭い場所に配管されていたこともあって、同配管系統に漏洩箇所がないか十分点検しなかった職務上の過失により、潤滑油フィルタ出口管の管継手ボルトから同油が漏洩するまま運転を続け、クランク軸等を焼損させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |