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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年6月16日04時05分 北海道厚岸湾南東方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船第五十三日東丸 総トン数 184トン 登録長 32.68メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力
1,176キロワット 回転数 毎分395 3 事実の経過 第五十三日東丸は、昭和59年2月に進水した、さけ・ます流し網漁業等に従事する船首楼付一層甲板型の鋼製漁船で、可変ピッチプロペラを有し、主機として、阪神内燃機工業株式会社が製造した6LUN28M型と称するディーゼル機関を、補機として、発電機駆動用のディーゼル機関2基をそれぞれ装備していた。 主機の冷却は清水で、ピストンの冷却は潤滑油でそれぞれ行われ、冷却清水ポンプ、冷却海水ポンプ及び潤滑油ポンプは、いずれも電動機によって駆動される方式となっていた。 燃料油系統は、燃料油移送ポンプにより燃料油タンクから機関室内の燃料油サービスタンクに送られたA重油が、主機及び補機に導かれる配管となっていた。そして、燃料油タンクは、船首タンク及び二重底タンク等に設けられており、船首から順に、船首燃料油タンク、1番ないし6番燃料油タンクと呼ばれ、船首燃料油タンクを除く各タンクは両舷に分かれ、合計で13区画あった。これら燃料油タンクの容量は、船首燃料油タンクが20キロリットルと最も大きくて、3番燃料油タンクが両舷とも4キロリットルと最も小さく、総容量が95キロリットルであった。また、各燃料油タンクの空気抜き管は、船首燃料油タンク、1番及び2番燃料タンクが船首楼甲板に、3番及び4番燃料油タンクが上甲板に、5番及び6番燃料油タンクが船橋楼甲板にそれぞれ導かれていた。 A受審人は、平成8年5月10日本船に初めて乗り組み、機関部員3人を指揮して機関の運転管理に従事することとなり、数日後、さけ・ます流し網漁の出漁準備の一環として、燃料油を各燃料油タンクが満杯となるように積み込んだ。 ところで、本船は、前年にまぐろはえ縄漁に従事しており、荒天時、甲板上に打ち込んだ海水が、船体の最も低い位置にあった3番左舷燃料油タンクの空気抜き管から浸入して同タンクに滞留していたが、同タンクの容量が小さかったことから、長期間にわたり使用される機会がなかったので、A受審人及び機関部員の誰もがこのことを知らなかった。 こうして本船は、操業の目的で、A受審人ほか15人が乗り組み、同月20日08時40分北海道釧路港を発し、越えて25日03時20分北洋漁場に至って操業を開始し、翌6月14日12時00分操業を切り上げ、主機回転数を毎分395翼角を19度として帰港の途についた。 翌々16日03時30分A受審人は、燃料油移送ポンプを手動運転として燃料油を船首燃料油タンクから燃料油サービスタンクに移送中、燃料油サービスタンクの油面計の油面が上昇しなかったので、船首燃料油タンクが空になったことを知り、今航海初めて3番左舷燃料油タンクを使用することとし、燃料油タンクの切替え操作を行い、燃料油移送ポンプを自動運転として機関室を離れ、食堂で休息していたところ、やがて海水混じりの燃料油が主機及び補機の各系統に供給され、04時00分補機が止まり、船内電源が喪失して照明が消えたのを認め、急ぎ機関室に駆け下りた。 そのころ、主機は、まだ運転を続けており、冷却清水ポンプ等の停止により冷却が阻害される状況となったが、A受審人は、電源喪失に驚いて気持ちが動転し、速やかに主機を停止する措置をとることなく、機関室内を右往左往するうち、04時05分厚岸灯台から真方位115度8.8海里の地点において、船尾側の6番ピストンが過熱膨張してシリンダライナに焼き付き、主機が自停した。 当時、天候は晴で風力1の東風が吹き、海上は平穏であった。 A受審人は、燃料油系統に海水が混入していることに気付き、同系統内の水分を排除したうえ、休止中の補機を運転して船内電源を確保したが、主機の冷却清水が6番シリンダライナの下部水密Oリングからクランク室内に漏れ出しているのを認め、主機が運転不能となった旨を漁労長に伝え、本船は僚船により発航地に引き付けられ、主機の開放調査が行われた結果、前示損傷のほか1番のピストン及びシリンダライナにもかき傷を生じていることなどが分かり、損傷した部品の新替え及び手直しが行われた。
(原因) 本件機関損傷は、船内電源喪失時における、主機の取扱いが不適切で、速やかに主機を停止する措置がとられず、電動機駆動方式の冷却清水ポンプが止まったまま主機の運転が続けられ、ピストンが過熱膨張したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、航行中、船内電源が喪失した場合、主機の冷却清水ポンプが電動機駆動方式であったから、速やかに主機を停止する措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、電源喪失に驚いて気持ちが動転し、速やかに主機を停止する措置をとらなかった職務上の過失により、ピストンの過熱膨張を招き、ピストン及びシリンダライナの焼損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |