日本財団 図書館




1998年(平成10年)

平成9年門審第117号
    件名
漁船第二十六日昇丸機関損傷事件〔簡易〕

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年2月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

杉?忠志
    理事官
副理事官 上原直

    受審人
A 職名:第二十六日昇丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
全主軸受、全クランクピン軸受、クランク軸、過給機ロータ軸などに焼損

    原因
主機始動前の潤滑油量の点検不十分、警報装置の取扱不適切

    主文
本件機関損傷は、主機始動前の潤滑油量の点検が不十分であったことと、警報装置の取扱いが不適切であったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年3月15日16時20分
鹿児島県内之浦港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十六日昇丸
総トン数 19トン
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 529キロワット
回転数 毎分2,000
3 事実の経過
第二十六日昇丸(以下「日昇丸」という。)は、平成元年7月に進水した中型まき網漁業に従事するFRP製の漁獲物運搬船で、主機として株式会社小松製作所が製造したEM679A-A型ディーゼル機関1基を装備し、同機の各シリンダには船首側を1番として6番までの順番号を付け、操舵室に潤滑油圧力低下及び冷却清水温度上昇の各警報装置が組み込まれた主機監視盤を備え、同室から主機の発停と遠隔操縦ができるようになっていた。
主機の潤滑油管系は、クランク室底部の容量約80リットルのオイルパンから直結の潤滑油ポンプによって吸引加圧された潤滑油が、潤滑油冷却器及び潤滑油こし器を経て入口主管に至り、同主管から分岐して主軸受、クランクピン軸受、ピストンピン軸受、主機上部の右舷側後部に据え付けられた過給機などに供給されるほか、同こし器出口側から分岐して各シリンダのピストン噴油ノズルにも供給され、主機各部を潤滑、冷却したのち、オイルパンに戻り循環するようになっており、オイルパンの左舷側に検油俸と給油口がそれぞれ設けられていた。
また、過給機の潤滑油出口管は、直径31.8ミリメートル(以下「ミリ」という。)のもので、供給された潤滑油が過給機から主機の右舷側後部のシリンダブロックに沿って床下のオイルパンに戻るよう配管されており、過給機とオイルパンとの間の同出口管の接続部に外径44.5ミリ内径30.5ミリ長さ110ミリのゴムホースが両端をそれぞれ1個のホースバンドで固定して取り付けられていたが、振動防止のための振れ止め金具などが取り付けられていなかった。
日昇丸は、まき網船団を組んだ網船1隻及び灯船2隻とともに大隅群島周辺の漁場に出漁し、漁場と基地である鹿児島県内之浦港間において漁獲物の運搬に従事し、基地を出港してから帰港するまで主機を連続運転としていた。
A受審人は、同7年3月から船長として日昇丸に乗り組み、機関の運転と整備にも当たり、同年5月に主機の全シリンダのピストン抜き整備などを行ったのち、定期的に潤滑油及び潤滑油こし器フィルタエレメントを取り替え、5日ないし6日ごとに、オイルパンの潤滑油量及び冷却清水タンクの水量を主機始動前に点検してそれぞれの消費量分の新油及び冷却清水を補給し、30分間ばかり暖機運転を行ったのちに出港するようにしており、運転中の主機の取扱いについては、潤滑油消費量やビルジ量がほとんど一定していたことから、操舵室で主機監視盤の回転計などを適宜確かめ、同室の覗(のぞ)き口から機関室内部の状況をたまに確認するようにしていたものの、出港、帰港ごとの主機の発停時及び運転中に機関室に赴いて主機各部の点検を行っていなかった。
同9年3月10日午後、A受審人は、出港に先立って主機始動の前にオイルパンの潤滑油量を点検し、通常どおり油面が検油棒の上限目盛りの位置になるよう約10リットルの新油を補給し、その後、連日漁獲物の運搬を繰り返していたところ、過給機の潤滑油出口管の各ホースバンドが機関振動の影響などによっていつしか緩みを生じ、ゴムホースから潤滑油が漏れ始め、これが次第に進行してオイルパンの潤滑油量が減少する状況となった。
同月15日15時30分ごろ内之浦港において、A受審人は、間もなく水揚げが終了することから、出港に備えて操舵室で主機を始動して暖機運転を開始することとした。しかしながら、同人は、数日前に検油捧の上限目盛りまで新油を補給したので、オイルパンの潤滑油量が通常以上に減少していることはあるまいと思い、主機始動の前に同油量を点検することなく、ゴムホースから潤滑油の漏洩(えい)が続いて同油量が減少していることに気付かないまま操舵室で主機始動スイッチを操作し、主機を回転数毎分500の中立運転とした。
このとき、A受審人は、全速力前進の定常運転になってから警報装置のブザー停止スイッチを投入すればよいと思い、主機始動時に同スイッチを投入することなく、甲板に出て出港準備、それに続いて離岸作業に当たった。
こうして、日昇丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、漁獲物の積込みの目的で、船首1.50メートル船尾2.50メートルの喫水をもって、同日16時10分内之浦港を発し、同港東方沖合の漁場に向けて主機の回転数を徐々に増速させながら航行しているうち、ゴムホースから潤滑油が漏洩し続け、オイルパンの潤滑油量が著しく減少するようになったうえ、同港の岸壁を離れるにしたがって船体が動揺するようにもなり、直結の潤滑油ポンプが空気を吸引して潤滑油圧力が低下したが、潤滑油圧力低下警報装置が警報ブザーを発しなかったので、同人がこれに気付かず、このまま運転が続けられ、16時20分内之浦港甲防波堤灯台から真方位043度1,000メートルばかりの地点において、潤滑が阻害された主軸受、クランクピン軸受などが焼損し、主機が異音を発して自停した。
当時、天候は曇で風力3の西南西風が吹き、海上には少しうねりがあった。
操舵に就いていたA受審人は、主機の異常に気付いて機関室に急行し、ターニングを試みたものの、果たせず、検油棒に油が付着しないことを認めて運転不能と判断し、僚船に救助を求めた。
日昇丸は、僚船により内之浦港に引き付けられ、同地においで精査した結果、全主軸受、全クランクピン軸受、クランク軸、過給機ロータ軸などに焼損を生じていることが判明し、のち修理費及び工期の関係で主機を換装した。

(原因)
本件機関損傷は、漁場に向けて出港するに当たり、主機始動前のオイルパンの潤滑油量の点検が不十分で、過給機潤滑油出口管のゴムホースのホースバンドに緩みを生じ、潤滑油が漏洩して同油量が減少したまま運転が開始されたことと、警報装置の取扱いが不適切で、同油量が著しく減少して直結の潤滑油ポンプが空気を吸引し、潤滑油圧力が低下しても警報ブザーを発しない状態のまま運転が続けられ、主機各部の潤滑が粗害されたこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、漁場に向けて出港する目的で主機を始動する場合、潤滑油管系から潤滑油の漏洩の有無を早期に検知し、潤滑油量が著しく減少して主機各部の潤滑が阻害されることのないよう、主機始動前にオイルパンの潤滑油量の点検を行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、数日前に検油捧の上限目盛りまで新油を補給したので、同油量が通常以上に減少していることはあるまいと思い、主機始動前に同油量の点検を行わなかった職務上の過失により、潤滑油管系から潤滑油が漏洩していることに気付かず、同油量の著しい減少により直結の潤滑油ポンプが空気を吸引して潤滑油圧力低下を招き、全主軸受、全クランクピン軸受、クランク軸、過給機ロータ軸などに焼損を生じさせるに至った。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION