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1998年(平成10年)

平成9年神審第14号
    件名
漁船第八正徳丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年3月10日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

山本哲也、工藤民雄、長谷川峯清
    理事官
吉川進

    受審人
A 職名:第八正徳丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定・旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
1番シリンダのクランクピンが異状摩耗、同軸受メタルが摩耗変形して位置がずれ、同連接棒大端部が過熱変形等

    原因
主機潤滑油ポンプ吐出側パッキンの破損防止措置不十分、主機が非常停止した際の始動準備不十分

    主文
本件機関損傷は、主機潤滑油ポンプ吐出側パッキンの破損防止措置が十分でなかったことと、主機が非常停止した際の始動準備が十分でなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年3月4日00時15分
能登半島西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八正徳丸
総トン数 36.57トン
登録長 21.35メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 272キロワット(定格出力)
回転数 毎分800(定格回転数)
3 事実の経過
第八正徳丸は、沖合底引網漁業に従事する昭和55年に進水した鋼製漁船で、主機として、ダイハツディーゼル株式会社が同年に製造した、6DSM-18AFS型と称するディーゼル機関を装備し、操舵室に主機の遠隔操縦装置を備えていた。
主機は、海水直接冷却の過給機付6シリンダ機関で、各シリンダには船首側から1番から6番までの順番号が付され、船首側の動力取出軸で甲板補機用の油圧ポンプ等を駆動できるようになっていた。
主機の潤滑油系統は、容量210リットルのクランク室底部潤滑油だめから、直接の潤滑油ポンプにより吸引され、約4キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)に加圧された同油が、潤滑油冷却器を経て圧力調整弁に至り、うち大部分がこし器を通って船尾側から潤滑油入口主管に、また一部余油が容量400リットルのサブタンクにそれぞれ送油され、同主管から主軸受ほか各部に注油された同油とサブタンクのオーバーフロー油とが、いずれも油だめに戻って循環するようになっていた。また、同系統には電動の予備潤滑油ポンプが備えられ、主機始動前の油通し等に使用されていた。
ところで直結潤滑油ポンプ吐出側のフランジには、呼び径25ミリメートルの吐出管に溶接された菱形フランジが、パッキンを介して2本のボルトで取り付けられていたが、同管は振れ止め金具が設けられておらず、また両フランジ突合面の間隙(かんげき)が大きく、中心がずれた状態であったことから、振動によってこれまで何度か同パッキンが破損していた。
なお、主機の警報装置は、潤滑油圧力低下や冷却海水温度上昇等の際、機関室及び操舵室に備えた警報盤で警報音を発するとともに、表示ランプが点灯するようになっており、うち潤滑油圧力については、運転中入口主管の同圧力が1.6キロに低下すると警報装置が作動し、更に1.2キロに低下すると保護装置が作動して主機を非常停止させるようになっていた。
A受審人は、平成3年7月から機関長として本船に乗り組み、ひとりで機関の運転管理にあたり、主機始動前には、必ず潤滑油量を確認し、予備潤滑油ポンプを運転して油通しを行っていた。ところで同人は、前示パッキンの損傷事故について、前任者から引継ぎを受け、また自らも同事故を2回経験していて、同6年夏ごろ2度目に同パッキンが破損した際は、保護装置が作動して主機が停止したが、厚目のパッキンを新たに購入して取り替えただけで、吐出管を新替えしてポンプ側フランジとの突合を修正する等の、パッキンの破損防止措置を講じることなく、操業に従事していたので、振動によって再び同パッキンに亀裂(きれつ)が発生し、徐々に進行し始めた。
本船は、A受審人ほか4人が乗り組み、操業の目的で、同8年3月3日22時石川県福浦港を発し、漁場に向け主機回転数を毎分770にかけて航行中、同パッキンの亀裂が進行し、比較的短時間のうちに油圧によりパッキンの一部が欠損し、同部から潤滑油が噴出して主機油だめの同油が減少し、23時ごろ潤滑油圧力低下の警報発生に続き、保護装置が作動して主機が停止した。
自室で休息していたA受審人は、警報音に気付いて機関室に急行し、吐出管パッキンの欠損を認めてこれを取り替え、潤滑油を補給してターニングできることを確認したが、主機を再始動するにあたり、平成6年の同事故のときと同様に、短時間の停止だからそのまま始動しても大丈夫と思い、予備潤滑油ポンプを運転のうえ油通ししながら入念にターニングする等の始動準備を行うことなく、翌4日00時ごろ主機を始動して操縦位置を操舵室に切り替えた。
こうして本船は、航行を再開し、主機を徐々に増速していたところ、油圧低下時の影響を最も強く受け、油膜が途絶えて金属接触したまま運転された1番シリンダのクランクピン軸受が急速に過熱焼損し、剥離(はくり)した軸受メタルが潤滑油ポンプを経てこし器を目詰まりさせ、00時15分海士埼灯台から真方位274度3.2海里の地点で、潤滑油圧力が低下した。
当時、天候は晴で風力3の南西風が吹き、海上はやや波が高かった。
機関室で主機の増速状況を監視していたA受審人は、動力取出軸の主機貫通部から白煙が発生し、しばらくして潤滑油圧力が低下し始めたことに気付き、主機を停止してこし器を開放したところ、軸受メタル粉が多量に付着していることを認め、運転不能と判断してその旨船長に連絡した。
本船は、僚船に曳航(えいこう)されて福浦港に帰港し、地元修理業者の手により、主機を開放して点検の結果、1番シリンダのクランクピンが異状摩耗し、同軸受メタルが摩耗変形して位置がずれ、同連接棒大端部が過熱変形していること等が判明し、のち主機は、クランク軸1番クランクピン部を修正修理したほか、損傷部品をすべて新替えして修理された。

(原因)
本件機関損傷は、それまで何度か破損したことがある、主機潤滑油ポンプ吐出側パッキンの破損防止措置が不十分であったことと、同パッキンが破損して潤滑油圧力低下により、主機が非常停止した際の始動準備が不十分で、軸受の油膜が途絶えたまま主機が再始動されたこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、潤滑油の圧力低下によって非常停止した主機を再始動する場合、各軸受の油膜が途絶えているおそれがあったから、そのまま始動して軸受が焼損することのないよう、油通ししながら入念にターニングする等の始動準備を行うべき注意義務があった。ところが、同人は、短時間の停止だからそのまま始動しても大丈夫と思い、始動準備を行わなかった職務上の過失により、1番シリンダクランクピン軸受の油膜が途絶えたまま再始動し、クランク軸等を損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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