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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年6月30日16時45分 金華山東方海上 2 船舶の要目 船種船名
漁船第三十三寿和丸 総トン数 300トン 長さ 49.00メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 1,471キロワット 回転数 毎分720 3 事実の経過 第三十三寿和丸は昭和62年10月に進水した、大中型まき網漁業に従事する鋼製運搬船で、主機には株式会社新潟鐡工所が製造した6MG28CX型と称する、シリンダライナにクロームめっきが施され、各シリンダに船首側から順番号が付された、間接冷却で燃料にA重油を使用する過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関を装備し、全速力を毎分710回転とし船橋操縦により運転されていた。 主機は、潤滑油系統がセミトライサンプ方式で、二重底サンプタンクに約3キロリットル保有される潤滑油が、直結ポンプで冷却器と金網式の油こし器を経て調圧弁で、約4.9キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)の油圧となって入口主管に送られ、主軸受とクランクピン軸受を順に通りピストン給油されるなどしたあと、オイルパンからサンプタンクに戻るようになっていた。 そして主機取扱説明書には、サンプタンクの潤滑油を1年ごとに全量取り替えること、運転500時間を目安に油こし器を掃除するが就航中の実績をみて間隔を決めるなどのほか、運転中のピストンリングとシリンダライナの金属接触によるスカッフィングやかじり付きなど、擦過傷防止のため過冷却や急激な負荷をかけたりしないこと、1,000時間ごとにピストンやシリンダライナなど機関の内部点検を行い、摺(しゅう)動面の軽微な油砥(と)石で修正することなどが記載されていた。 本船は、平成5年1月に乗船したA受審人のほか9人が乗り組み、金華山沖から八丈島周辺に至る沖合漁場で周年操業し、同受審人ら機関部員3人が漁場への往復航海中のみ交代で機関当直に当たり、毎年3月の休漁期に船体及び機関が整備され、主機については運転時間が年間ほぼ5,000時間弱で、同7年3月定期検査のときクロームめっき剥(はく)離のため3番シリンダライナを取り替え、翌8年3月に潤滑油が全量取り替えるなどされたあとほぼ正常な状態で運転されていたところ、いつしか微小な傷がいずれかのシリンダライナ摺動面に生じており、その進行による擦過傷の摩耗粉により油こし器が次第に汚れる状況であった。 同年6月4日主機は、漁場から水揚げのため全速力で福島県小名浜港向け航行中、A受審人の当直中に油圧が約4キロに低下しているのが発見され、油こし器を開放掃除し油圧が回復したので毎分約660回転で運転続航し、同日午後同港入港後業者に点検を依頼のうえ、損傷していた調圧弁の当たり面をすり合わせするなどの整備が行われた。 ところでA受審人は、油圧低下で油こし器掃除のとき金網にピストンリングなどの金属摩耗粉が多量に付着しており、クランクケースドアを開放して内部を点検すれば、シリンダライナの擦過傷を認めうる状況であったが、油こし器を掃除すれば油圧が回復するので大丈夫と思い、調圧弁の手入れなど潤滑油系統の点検を業者に依頼しただけで内部点検を行わず、傷を油砥石で修正したり負荷を下げるなどして摺動面を回復させる適切な措置がとられず、傷の進行で著しく肌荒れするおそれのあることに気付かないまま運転を続けた。 こうして本船は、同8年6月21日宮城県石巻港を発し、越えて24日夕刻金華山東方沖合の漁場に到着した際主機の油圧低下が認められ、油こし器を掃除して操業を始めたがその後もこし器の汚れる状態が続き、同月29日に操業を終え帰港することとなって全速力で航行中、肌荒れで潤滑阻害された各シリンダライナが焼損して再度油こし器が詰まり、同月30日16時45分北緯38度6分東経146度21分の地点において、油圧が3.9ないし4キロに低下しているのを当直者が認め主機を停止した。 当時、天候は曇で風力1の北風が吹き、海上は穏やかであった。 A受審人は、油こし器を掃除するとともに業者と連絡のうえ減速航行し、翌7月1日午後同県塩釜港に入港して点検の結果、主機は各シリンダともピストンには異常なかったが、シリンダライナに甚だしいスカッフィングを生じており、全シリンダのピストンリングやシリンダライナを取り替えるなどの修理が施された。
(原因) 本件機関損傷は、主機運転中に油こし器が詰まり油圧が低下したのを認めた際、内部点検が不十分で、シリンダライナ摺動面に擦過傷を生じたまま運転が続けられたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、主機運転中に油こし器が詰まり油圧が低下したのを認めた場合、シリンダライナ摺動面に擦過傷を生じている状況であったから、クランクケース内部を点検するなど適切な措置を講じるべき注意義務があった。しかし同受審人は、油こし器を掃除すれば油圧が回復するので大丈夫と思い、内部点検を行わなかった職務上の過失により、全シリンダライナを焼損するに至った。 |