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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成7年11月25日07時ごろ 沖縄県平良港外 2 船舶の要目 船種船名
交通船ヤッケティヤック 登録長 6.84メートル 機関の種類 4サイクル8シリンダ・V型電気点火機関 出力 139キロワット 回転数
毎分4,400 3 事実の経過 ヤッケティヤックは、船体中央部甲板上に運転席、後部甲板下に機関室を配置し、機関室上方の甲板上に機関室の上ぶたを備えたFRP製交通船で、A受審人が、沖縄県平良港を基地としてスキューバダイビング目的の客の輸送に使用するため、平成7年9月中古の本船を購入し、主機を日産自動車株式会社が製造したニッサンマリーンエンジンYA190型電気点火機関に換装し、推進装置をウォータージェット方式にするなどの改装を行い、完工後の同年11月23日同港内の海面に着水し、3分間ほど主機を運転したのち係留した。 主機の冷却は間接冷却方式で、主機駆動の冷却海水ポンプにより、機関室右舷後部の船底に設けられた船体付海水吸入コックから吸入加圧された海水が、潤滑油冷却器、清水冷却器を冷却し、分岐して右舷列及び左舷列の排気マニホルド外周の冷却水通路に入って排気熱を冷却したのち冷却海水吐出管を兼ねた排気管内に入り、それぞれの排気管壁の冷却を行って船尾の水面下に設けられた二つの排気口から排気ガスと共に排出されるようになっていた。排気管はアルミニウム合金製管と外径86ミリメートル厚さ5ミリメートルのゴム製管で構成され、アルミニウム合金製管にゴム製管の一端を差し込み、更にゴム製管の他端を排気口部の金物に差し込んで取り付けられ、それぞれのゴム製管の接続部がホースバンドで固定されていた。同コックは、栓の上面にコックの開閉を明確にするために、水流路の方向を示す刻みが入れられ、開閉が容易に確認できるようになっていた。 A受審人は、機関等の改装時に業者から主機の取扱方法について指導を受け、運転中排気管のゴム製管等の冷却が阻害されることのないよう、始動前に必ず船体付海水吸入コックを開けることの必要性を認識していた。 同年11月25日06時40分A受審人は、平良港外で1時間ほど試運転を行う目的で係留中の本船に赴き、出航準備にかかったが、船体付海水吸入コックについては、2日前に船体を着水して主機を始動したときから開けたままであると思い、始業前点検を十分に行わなかったので、同コックが閉まったままであることに気付かず、同時50分少し前運転席で主機を始動した。 こうしてヤッケティヤックは、A受審人が船長として乗り組み、知人など4人を同乗させ、06時50分平良港を発し、後部甲板上から主機の排気口を見れば冷却海水が排出されていないのが分かる状況であったが、通水確認がされなかったので、排気管のゴム製管等の冷却が阻害されたままとなり、同受審人が運転席で主機の回転数を徐々に増加させていたところ、排気管が過熱し、07時少し前回転数を毎分4,000に上げた直後、排気管の右舷列のゴム製管に破口が生じ、左舷列のゴム製管が排気口の取付け部から抜け出し、排気口から海水が機関室に逆流して浸水し、07時ごろ平良港北防波堤灯台から真方位249度1,430メートルばかりの地点において、主機が冠水して自停した。 当時、天候は晴で風力2の北北東風が吹き、海上は穏やかであった。 A受審人は、機関室の上ぶたを開けて、ゴム製管の前示損傷に気付き、海水の噴き出る箇所に布を詰めるなどして防水に努めたが浸水は止められず、海水をバケツで排出しながら漂流するうち、浅礁に着底したので、同乗者4人と共に泳いで岸に上陸した。 ヤッケティヤックは、平良港へ運ばれ上架されたが、経費の都合で修理はされなかった。
(原因) 本件機関損傷は、主機の始動前点検が不十分で、冷却海水系の船体付海水吸入コックが開けられないまま運転が続けられ、冷却海水吐出管を兼ねた排気管等の冷却が阻害され、航行中、同管のゴム製管が過熱したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、主機を運転する場合、冷却海水系の船体付海水吸入コックを開け忘れて排気管等の冷却が阻害されることのないよう、始動前点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、2日前に船体を着水して主機を始動したときから開けたままであると思い、始動前点検を十分に行わなかった職務上の過失により、同コックを開けることなく運転を続け、冷却海水による冷却水吐出管を兼ねたゴム製排気管等の冷却が阻害されて過熱し、同管に破口あるいは排気口の取付け部からの抜け出しを生じ、水線下に開口された排気口から海水が機関室に逆流し、主機が冠水して自停するに至らしめた。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |