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1998年(平成10年)

平成9年門審第96号
    件名
漁船金比羅丸機関損傷事件〔簡易〕

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年1月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

杉?忠志
    理事官
副理事官 上原直

    受審人
A 職名:金比羅丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
全シリンダの主軸受、クランクピン軸受、ピストン及びシリンダライナほか、クランク軸、過給機ロータ軸なども焼損

    原因
主機冷却清水の漏洩箇所の点検不十分

    主文
本件機関損傷は、主機冷却清水の漏洩(えい)箇所の点検が不十分で、冷却清水が潤滑油中に混入するまま運転が続けられたことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年9月16日23時30分
対馬海峡
2 船舶の要目
船種船名 漁船金比羅丸
総トン数 9.53トン
登録長 14.05メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 238キロワット
3 事実の経過
金比羅丸は、昭和54年12月に進水した、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、アメリカ合衆国カミンズ社が製造したNT-855-M型と称する連続最大回転数毎分2,100の過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関を備え、操舵室に冷却清水温度上昇及び潤滑油圧力低下の各警報装置を設け、同室から主機の遠隔操縦ができるようになっていた。
主機の冷却清水系統は、直結の渦巻式冷却清水ポンプにより約2.8キログラム毎平方センチメートルに加圧された冷却清水が、冷却水入口主管から分岐して各シリンダのシリンダライナ及びシリンダヘッドを冷却したのち、冷却水出口集合管及び排気集合管を経て自動温度調節弁に至り、同調節弁から冷却清水タンク兼清水冷却器及び潤滑油冷却器を経由するものと、それぞれの冷却器をバイパスするものとに分かれ、次いで同ポンプの吸入管で再び合流するようになっており、循環する冷却清水の総量が約45リットルであった。
また、主機の潤滑油系統は、クランク室底部の容量約43リットルのオイルパン内に入れられた潤滑油が、直結の歯車式潤滑油ポンプにより吸引加圧され、潤滑油冷却器及び潤滑油こし器を経て潤滑油入口主管に至り、分岐して各シリンダの主軸受、クランクピン軸受及びピストンピン軸受に供給されるほか、ロッカーアーム、ピストン冷却噴油ノズル、過給機軸受などにも供給されており、主機各部を潤滑、冷却したのち、オイルパン内に戻るようになっていた。
A受審人は、平成612月に金比羅丸を購入して船長として乗り組み、長崎県志多賀漁港を基地として、対馬周辺の漁場でいか一本釣り漁業に従事し、休漁日を除いて16時ごろ出港して翌日04時ごろ帰港するという操業形態を繰り返し、その間主機を連続運転として月間300時間ばかり運転していた。
ところで、A受審人は、潤滑油及び潤滑油こし器フィルタエレメントの取替えを定期的に行い、主機を始動する前に冷却清水タンクの水量及びオイルパンに備えられた検油棒で潤滑油量をそれぞれ点検しており、主機の保守については、金比羅丸を購入したとき整備来歴が不明であったものの、それまで調子が良く、警報装置が作動することもなかったことからピストン抜きなどの整備を行わず、各シリンダライナを継続使用していた。
主機のシリンダライナの下部外周部には、クレビスシールと称するゴム製バンド1本及びOリング2本が装着されており、それらが長期間取り替えられないまま使用されて弾力性を失い、なかでも2番及び3番の各シリンダライナのOリングなどの水密性が著しく低下し、いつしか、同部から漏洩した冷却清水がクランク室内に浸入して潤滑油中に混入するようになった。
A受審人は、同8年8月29日ごろから冷却清水タンクの水量が減少し、更にそれまで4日ないし5日ごとに4リットルばかり補給していたオイルパン内の潤滑油が減らなくなったことにも気付いた。ところが、同人は、冷却清水が潤滑油中に混入していることに思い及ばず、冷却清水を補給すれば運転に支障はないものと思い、修理業者に依頼するなどして、速やかに冷却清水の漏洩箇所の点検を行うことなく運転を続けたので、冷却清水の漏洩が続いて潤滑油の性状劣化が進行し、主機各部の潤滑が阻害される状況となった。
こうして、金比羅丸は、A受審人が単独で乗り組み、船首0.40メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、翌9月16日16時志多賀漁港を発し、17時ごろ同漁港東方沖合の漁場に至って主機を回転数毎分1,800の中立運転にかけ、集魚灯用発電機を駆動して操業を開始し、いかが釣れなくなったので23時10分ごろ操業を打ち切って同漁港向け帰途に就き、主機を回転数毎分1,600の全速力前進にかけて航行中、潤滑油の著しい性状劣化によって潤滑が阻害されていた主軸受、クランクピン軸受などが焼損してクランク軸に焼き付くようになり、同日23時30分対馬長崎鼻灯台から真方位060度4.5海里の地点において、主機の回転が低下した。
当時、天候は晴で風力1の西北西風が吹き、海上は平穏であった。
操舵室で操船中のA受審人は、異常を知って機関室に急行し、主機各部が著しく発熱していることを認めて直ちに主機を停止した。
その後、A受審人は、冷却清水タンクが空になっているのを認め、冷却清水が漏洩してクランク室内に浸入しているものと判断し、僚船に救助を求めた。
金比羅丸は、僚船により志多賀漁港に引き付けられ、同地において主機を精査した結果、全シリンダの主軸受、クランクピン軸受、ピストン及びシリンダライナに焼損が生じていたほか、クランク軸、過給機ロータ軸などにも焼損が生じていることが判明し、のち主機を換装した。

(原因)
本件機関損傷は、主機の冷却清水タンクの水量が減少し、更にオイルパン内の潤滑油が減らなくなった際、冷却清水の漏洩箇所の点検が不十分で、冷却清水が潤滑油中に混入するまま運転が続けられ、潤滑油の性状劣化が著しく進行し、主機各部の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機の冷却清水タンクの水量が減少し、更にオイルパン内の潤滑油が減らなくなったのを認めた場合、冷却清水が潤滑油中に混入しているおそれがあったから、修理業者に依頼するなどして、速やかに冷却清水の漏洩箇所の点検を行うべき注意義務があった。ところが、同人は、冷却清水を補給すれば運転に支障はないものと思い、速やかに冷却清水の漏洩箇所の点検を行わなかった職務上の過失により、シリンダライナから漏洩した冷却清水がクランク室内に浸入して潤滑油の著しい性状劣化を招き、全シリンダの主軸受、クランクピン軸受、ピストン及びシリンダライナのほか、クランク軸、過給機ロータ軸などに焼損を生じさせるに至った。






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