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1998年(平成10年)

平成8年神審第124号
    件名
漁船第一たよ丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年1月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

山本哲也、早川武彦、織戸孝治
    理事官
吉川進

    受審人
A 職名:第一たよ丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第一たよ丸前任機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定・旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
全ピストンがシリンダライナと焼き付き、主軸受及びピストンピン軸受の全軸受メタル等が損傷

    原因
主機冷却清水の漏洩箇所の点検不十分、安全運航に対する配慮不十分

    主文
本件機関損傷は、主機冷却清水の漏洩(ろうえい)箇所の点検が不十分であったことと、安全運航に対する配慮が不十分で、機関長を乗り組ませていなかったため、主機が過熱した際、適切な措置がとられなかったこととによって発生したものである。
受審人Bの五級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年10月5日06時00分(日本標準時、以下同じ。)
フィリピン共和国南部東方沖
2 船舶の要目
船種船名 漁船第一たよ丸
総トン数 18トン
登録長 14.81メートル
機関の種類 4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 161キロワット(定格出力)
3 事実の経過
第一たよ丸は、昭和59年に進水し、まぐろはえ縄漁業に従事する、最大搭載人員が船員6人と定められたFRP製漁船で、主機として、株式会社新潟鉄工所が製造した、6NSA-M型と称する、定格回転数毎分1,700のセルモーター始動過給機付ディーゼル機関を装備し、操舵室に主機の計器盤及び遠隔操縦装置を備え、同室から発停を含む主機のすべての運転操作が行われていた。
主機の冷却清水系統は、清水冷却器を兼ねる膨張タンクから、直結遠心式の冷却清水ポンプによって吸引された循環水量約30リットルの清水が、各シリンダのシリンダライナ及びシリンダヘッド各部を冷却したのち、排気管内部の冷却水管を通り、温度調整弁を経て膨張タンクに戻るようになっており、同ポンプの軸封装置にはメカニカルシールが用いられていた。
本船は、平成6年3月に高知市の造船所で第1種中間検査を受検後、操業基地を、それまでの沖縄からインドネシア共和国スラウェシ島のビツン港に変え、B受審人及び日本人船長が職員として、ほかすべて外国人の部員が乗り組み、日本国沿岸から100海里を大きく超えて、フィリピン諸島西方沖からグアム島周辺に至る海域を漁場に、1航海約20日間の操業に従事し、水揚げを主としてビツン港で、ほかフィリピン共和国ミンダナオ島のダバオ港などで行っていた。ところで、本船は、同5年2月に冷却清水ポンプのメカニカルシールが損傷し、冷却が阻害されて主機の全シリンダライナ等が焼損し、同年5月から6月にかけて同ポンプを含め損傷部品をすべて新替えして修理したことから、同6年3月の検査工事は、外観検査及び試運転で受検をすませ、主機の開放整備は省略していた。
B受審人は、新造時から機関長として乗り組んで本船の運航管理にあたっており、操業基地をビツン港に移す際に、外国港の入出港及び水揚げ代金の精算などの手続きのほか、部員の手配を那覇市の船舶代理店業者に委託し、船長を自ら手配して出漁していた。また、機関の運転管理にあたり同人は、インドネシア人2人に、言葉が通じないなか身振り手振りで、主機の冷却清水や潤滑油の補給など、基本的な取扱方法を教えて機関担当にあたらせ、操業を繰り返していたところ、同7年8月初旬、両ひざの具合が悪くなり沖縄に帰国して治療することとした。
このころ主機は、2年以上無開放のまま周年操業で長時間使用されたことから、ピストンリングが摩耗して燃焼ガスが吹抜け気味になるとともに、冷却清水ポンプのメカニカルシールが劣化し、それまでほとんど減少することがなかった冷却清水が、定期的に補給が必要な状態となっていた。ところがB受審人は、補給さえしておけば大丈夫と思い、冷却清水の漏洩箇所を点検することなく、また、主機の開放整備のことを全く検討しなかったばかりか、船舶職員法の規定に従って交代者を手配しないまま、同月中旬ビツン港で下船した。
A受審人は、平成6年5月から本船に乗り組んでおり、機関の知識が余りなかったが、B受審人が交代者を手配しないまま下船しようとしていることを知ったとき、同人から機関の調子は良好である旨を聞き、いつも同人と仕事をしている部員2人が乗り組んでいることもあって大丈夫と思い、交代者を手配するよう要求せず、同人の下船に際し、交代者が乗船するまで出漁を中止することなく、機関長を乗り組ませずに出漁した。このようにA受審人は、機関の管理を部員2人に任せ、主機のブローバイ及び冷却清水ポンプメカニカルシールの劣化が徐々に進行したが、適切な措置をとる者がいないまま、操業に従事していた。
こうして本船は、定員を超えてA受審人ほかインドネシア人等外国人船員8人が乗り組み、同7年9月25日10時ダバオ港を出港し、同港東方沖合の漁場に至って操業を繰り返していたところ、主機が過熱したが、警報スイッチが切られていたこともあって、異状状態であることを誰も気付かずに運転が続けられ、投縄中の同年10月4日07時、各ピストンが焼付き気味となって主機が著しく過熱し、ようやく異状に気付いた部員がA受審人に報告して主機を停止した。この時主機は、各シリンダライナ下部のOリングが過熱により損傷し、冷却清水がクランク室内に漏洩し始めていた。
A受審人は、担当部員に主機が過熱した原因を確かめたが分からず、不安を覚えてダバオ港に帰港することとし、同機が冷えるのを待って冷却水を補給させたうえ、部員2人を主機の監視にあたらせ運転を再開し、回転数を毎分1,000の低速にかけて帰航中、ブローバイが激しくなり、翌5日06時00分北緯5度12分東経135度57分の地点において、ピストンが焼き付いて主機が自然に停止し、潤滑油検油棒の挿入口から燃焼ガスが潤滑油及び冷却水とともに噴出した。
当時、天候は曇で風力2の北東風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、主機が冷えたのちターニングを試みた部員から、回らない旨の報告を受けて僚船に救援を依頼し、同船に曳航(えいこう)されて同10月13日ダバオ港に入港し、現地修理業者により主機を開放して点検したところ、全ピストンがシリンダライナと焼き付き、主軸受及びピストンピン軸受の全軸受メタル等が損傷していることが判明し、のち、主機は、損傷部品をすべて新替えして修理された。

(原因)
本件機関損傷は、主機冷却清水ポンプのメカニカルシールが損傷し、冷却清水が漏洩して定期的な補給が必要となった際、漏洩箇所がないか点検が不十分であったことと、安全運航に対する配慮が不十分で、外洋型船である本船が、有資格の機関長を乗り組ませないまま出漁したため、主機が過熱した際、適切な措置がとられなかったことによって発生したものである。
安全運航に対する配慮が不十分であったのは、船舶所有者である機関長が、主機冷却清水の漏洩箇所がないか点検しなかったばかりか、交代者を手配しないまま長期間下船したことと、船長が交代者を手配するよう要求せず、機関長を乗り組ませないまま出漁したこととによるものである。

(受審人の所為)
B受審人は、機関長として運航管理にあたり、それまでほとんど減少しなかった主機冷却清水が、定期的に補給が必要となったことを認めた場合、系統に漏洩箇所がないか点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、補給さえしておけば大丈夫と思い、系統に漏洩箇所がないか点検しなかった職務上の過失により、機関長が乗船せずに出漁中、主機が過熱するという事態を招き、適切な措置をとれる者がいないままピストン等各部の焼損を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。
A受審人は、出漁に際して交代者の手配を行わずに機関長が下船することを知った場合、交代者が乗り組むまで出漁を中止すべき注意義務があった。ところが、同人は、下船する機関長から主機の状態が良好である旨の引継ぎを受けて大丈夫と思い、交代者が乗り組むまで出漁を中止しなかった職務上の過失により、出漁中の主機の損傷を招き、本船の運航不能を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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