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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成7年6月3日03時15分 宮城県女川港 2 船舶の要目 船種船名
漁船第三清竜丸 総トン数 30トン 機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力 404キロワット 回転数
毎分900 3 事実の経過 第三清竜丸(以下「清竜丸」という。)は、昭和52年10月に進水した鋼製漁船で、沖合底びき網漁業に従事し、主機として、ヤンマーディーゼル株式会社が同52年8月に製造した6MA-DT型ディーゼル機関1基を装備していた。 主機潤滑油の主系統は、常備油量が約200リットルのクランク室油だめから直結潤滑油ポンプ(以下、潤滑油の機器名については「潤滑油」を省略する。)によって吸引加圧された潤滑油が、複式こし器、冷却器を経て主管に至り、主軸受、クランクピン軸受、ピストンピン軸受を順に潤滑した後ピストン裏側を冷却してクランク室へ落下するようになっていた。 クランク室ミスト抜き管は、機関室を立ち上がって上甲板中央右舷側のコンパニオンの天井を貫通し、主機の化粧煙突後方に取り付けられたグーズネックス状のミスト抜き管(以下「ミスト抜き管」という。)に接続されていた。 A受審人は、同61年8月以来機関長として乗り組み、宮城県女川港を基地とする日帰り操業に従事していたもので、平成7年1月初めの休漁中に簡単な機関整備を行い、主機の潤滑油については、業者に依頼してクランク室油だめの潤滑油を排出し、同油だめ内を掃除して新油を張り込み、更油作業を終えた。 その後、ミスト抜き管が前示取付部に腐食破孔を生じ、これより雨水や海水が微少量ずつ浸入し、潤滑油が劣化するようになった。 ところで、潤滑油が水分を含んでいるかどうかは、日常の油量点検時などに懐中電灯のガラス面にサンプルを薄く塗って水滴の有無を点検し、水分混入の疑いのあるときは、同油を少量採取し、加熱、してピチピチと音の出るのを確認したり、静置して水分が分離するのを観察したりするなどして、船内において簡単に知ることができた。しかし、A受審人は、年2回更油し、適宜消費分を補給しているから潤滑油が劣化していることはあるまいと思い、水分混入の有無の点検を十分に行わなかったので潤滑油中に水分が混入していることに気付かなかった。 こうして、清竜丸は、A受審人ほか4人が乗り組み、主機を回転数毎分800にかけ、同年6月3日03時女川港を発し、翼角を徐々に上げて金華山沖合の漁場に向かったところ、潤滑油の劣化が更に進行していたため主軸受、クランクピン軸受などが潤滑阻害を生じて焼損し、同港の北防波堤を替わって主機を回転数毎分900に増速して航走中、03時15分女川港北防波堤灯台から真方位159度190メートルの地点において、ミスト抜き管から白煙を噴き出した。 当時、天候は晴で風力3の北北西風が吹き、海上にはやや波があった。 A受審人は、出港作業を終えて後部甲板で休息中、前示白煙の噴き出しに気が付いて機関室に降り、室内に薄く煙が滞留しており、また、クランク室に触手したところ、過熱しているのを認めた。 清竜丸は、減速して帰途に就き、同港へ着岸した後、修理業者が主機を陸揚げして開放した結果、前示損傷のほか、2番シリンダのピストン及びシリンダライナ並びにポンプに焼損が、台板の船尾側にき裂が認められ、台板、クランク軸は中古品と交換し、その他のものは、新替えするなどの修理がなされた。
(原因) 本件機関損傷は、主機潤滑油中の水分混入の有無の点検が不十分で、潤滑油がクランク室ミスト抜き管の腐食破孔箇所から浸入した海水などにより、著しく劣化したまま運転が続けられ、各部の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、主機潤滑油の性状管理に当たる場合、海水などが混入していることを見逃すことのないよう、適宜潤滑油中の水分混入の有無を十分に点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、年2回更油し、適宜消費分を補給しているから劣化していることはあるまいと思い、潤滑油中の水分混入の有無を十分に点検しなかった職務上の過失により、潤滑油中に水分が混入したまま運転を続け、主軸受などの焼損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |