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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年9月5日16時15分 関門港六連島区 2 船舶の要目 船種船名
漁船第一泉宝丸 総トン数 14.16トン 登録長 14.90メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力
250キロワット 回転数 毎分1,800 3 事実の経過 第一泉宝丸(以下「泉宝丸」という。)は、昭和52年2月に進水した中型まき網漁業船団付属の運搬船として従事するFRP製漁船で、主機として三菱重工業株式会社が製造した6ZDAC-1型と称するディーゼル機関1基を装備し、4月から12月までの漁期に、船団とともに夕刻に漁場へ向かい、漁獲物を積んで翌日の早朝に市場に戻る操業形態で運航されていた。 主機の潤滑油系統は、機関底部の油だめにためられた約90リットルの潤滑油が、主機直結の潤滑油ポンプで吸引・加圧され、潤滑油冷却器と潤滑油こし器(以下「こし器」という。)を経て潤滑油主管に入り、主軸受からクランクピン軸受に至る経路、各ピストン冷却ノズルへの経路、カム軸駆動装置、動弁装置などの枝管に分かれ、各部の潤滑・冷却をしたのち、再び油だめに戻るようになっていた。 ところで、主機の潤滑油系統には、もともとこし器としてバイパス弁を内蔵した複筒のペーパーフィルタ式が採用され、こし器が目詰まりして入口と出口の差圧が1.5キログラム毎平方センチメートル(以下、「キロ」という。)を超えると、バイパス弁が開くとともに、付属スイッチが作動して操舵室計器盤上の目詰まりを示すランプが点灯し、さらに潤滑油主管の圧力が0.5キロを下回ると、潤滑油圧力低下警報がブザーとランプで操舵室警報盤上に発せられるような警報装置が付いていたが、平成6年3月泉宝丸を中古船として購入する以前に、こし器がバイバス弁を有しない、ノッチワイヤー式のものに取り替えられ、同警報装置の配線とランプがいずれも取り外されていた。 B指定海難関係人は、株式会社Aの取締役で、泉宝丸ほか1隻を所有する傍ら、自ら網船1隻、灯船3隻及び運搬船3隻の合計7隻で構成するまき網船団の漁労長を兼務し、泉宝丸を購入した際、それまでの同船の整備歴が分からなかったので、整備業者から主機の取扱説明書を取り寄せたが、主機の潤滑油警報装置を整備しないまま、本船の使用を開始し、その後、運転管理を船長に任せて潤滑油警報の状況を確認しなかった。 A受審人は、平成7年12月から泉宝丸の船長として機関の運転管理に携わり、平素、出港前の点検で主機油だめの油量を確認するようにしており、定期整備として同8年6月ごろ油だめの潤滑油の全量を取り替え、こし器を開放してエレメントの掃除を行った。 泉宝丸は、主機の運転時間が、平均して月間230時間ほどであったが、同年6月にエレメントを掃除したあとこし器の掃除を行っていなかったので、8月末にはエレメントの汚れが進み、潤滑油圧力が徐々に低下していた。 A受審人は、同年9月1日主機の潤滑油圧力が低下し始めたことに気付いたが、油だめの潤滑油量が確保されていたので大丈夫と思い、直ちにこし器を開放してエレメントを掃除することなく、操業を繰り返した。 こうして泉宝丸は、9月5日15時55分主機を始動し、16時00分A受審人ほか1人が乗り組み、船首0.5メートル船尾1.1メートルの喫水をもって山口県下関漁港を発し、回転数を毎分1,700にかけて蓋井島北西方沖合の漁場に向かっていたところ、こし器が閉塞して潤滑油圧力がさらに低下したが、潤滑油警報装置が取り外されていたため警報が発せられず、また、同受審人が操舵室の潤滑油圧力計を監視していなかったので、そのまま運転が続けられ、主機4番シリンダのクランクピンメタルの潤滑が阻害されて焼き付き、16時15分六連島港東防波堤灯台から真方位094度1,400メートルの地点で操舵室前に配置されたオイルミスト管から白煙が噴出し、主機が停止した。 当時、天候は曇で風力2の北西の風が吹いていた。 A受審人は、機関室に入って点検するうち、焦げた臭いを感じて運転不能と判断し、同航の僚船に連絡して曳(えい)航を依頼し、泉宝丸は、下関漁港に引き付けられたのち、損傷した主機の軸受メタル、クランク軸、連接棒などが取り替えられ、潤滑油警報装置が整備された。
(原因) 本件機関損傷は、主機のこし器の掃除が不十分で、同こし器が閉塞し、潤滑油圧力が低下したまま運転が続けられたことによって発生したものである。 船舶所有者が、整備状況が不明なまま購入した主機の潤滑油警報装置を整備しなかったことは、本件発生の原因となる。
(受審人等の所為) A受審人は、船長として主機の運転管理をするに当たり、潤滑油圧力が低下していることに気付いた場合、こし器が閉塞して潤滑油の圧力がさらに下がるおそれがあったのであるから、ただちにこし器を開放して掃除をするなど、潤滑油圧力回復の措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、潤滑油量が確保されていれば問題ないだろうと思い、ただちにこし器を開放して掃除をしなかった職務上の過失により、クランクピン軸受の潤滑阻害を招き、同メタルが焼き付く損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B指定海難関係人が、整備状況が不明な中古船を購入した際、主機の潤滑油警報装置を整備しなかったことは、本件発生の原因となる。 B指定海難関係人に対しては、その後、潤滑油警報装置の整備の措置をとっていることに徴し、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。 |