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1998年(平成10年)

平成9年門審第102号
    件名
漁船第五十八栄丸機関損傷事件〔簡易〕

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年6月18日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

吉川進
    理事官
根岸秀幸

    受審人
A 職名:第五十八栄丸機関長 海技免状:三級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
主機の全てのシリンダヘッドの始動弁孔に亀裂、始動弁及び始動空気管取り替え

    原因
主機の始動空気に用いる空気だめのドレンの排除不十分

    主文
本件機関損傷は、主機始動に用いる空気だめのドレン排除が不十分で、始動空気主管内に発生したさびが始動空気弁に噛み込んだことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年6月12日09時00分
日本海西部
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五十八栄丸
総トン数 123トン
全長 35.35メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 588キロワット
回転数 毎分375
3 事実の経過
第五十八栄丸(以下「栄丸」という。)は、昭和50年3月に進水した、かにかご漁に従事する鋼製漁船で、主機として株式会社赤阪鐡工所が製造したDM26R型と呼称する、逆転用クラッチ付ディーゼル機関1基を装備していた。
主機は、船首側から1番ないし6番の気筒番号が付され、各気筒のシリンダヘッドに、吸気弁、排気弁、燃料噴射弁などのほか、始動の際に空気だめの圧縮空気をピストン上部に吹き込む始動空気弁(以下「始動弁」という。)が取り付けられていた。
主機の始動空気系統は、機関入口の始動空気開閉弁を開くと、空気だめの圧縮空気が圧力配管用炭素鋼管製の主管から枝管を経て各始動弁へ送られるもので、同主管船尾端から分岐してカム軸後端の管制弁の切り欠きを通った空気が、パイロットエアとして始動のタイミングにある気筒の始動弁を押し開くようになっていた。
始動弁は、シリンダヘッドの燃焼室に面した弁座を有し、弁棒中央部が青銅製のガイドブッシュに案内されてシリンダヘッドを貫通する弁室に取付けられ、弁頭部にパイロットエアを受けて押し下げるパイロットピストン仕組が植込スタッドとナットで締め付けてあり、始動時に開閉した後、燃料運転中には、燃焼ガスが始動空気管に逆流しないよう、閉鎖のまま気密が保たれるものであった。
圧縮空気は、出力3.7キロワットの電動機で駆動される往復動式2段空気圧縮機で圧縮され、制限圧力30キログラム毎平方センチメートル、容積150リットルの空気だめ2個にためられ、うち1個を一航海毎に交互に使用槽として切り替えながら、常時、主機及び2台の補機の始動空気として、並びに主機と甲板機械用油圧ポンプを連結するエアクラッチの作動空気として供給されていたが、操業中にエアクラッチの嵌(かん)脱に消費する空気量が多く、空気圧縮機が頻繁に自動発停して補給運転を行っていたので、同空気だめの底部では多量にドレンが滞留していた。
A受審人は、機関長として機関の運転と整備に従事し、操業中は5ないし6時間毎に機関室の見回りをしており、気が付いた時にドレンを抜けば大丈夫だろうと思い、空気だめのドレンを定期的に排出することなく、操業中に空気圧縮機が繰り返し補給運転をして、ドレンの滞留が多いことに思い至らなかった。
栄丸は、例年9月1日から翌年の6月30日までの漁期に日本海西部で操業を行い、出港から入港まで7ないし10日となる操業形態をとっており、港と漁場との間を航行するときは、主機を毎分回転数370(以下、回転数は毎分のものとする。)ほどにかけ、漁場で操業中は、低速で移動したり、クラッチを中立として270回転で待機するなど、帰港するまで主機を連続運転していたが、主機始動後に空気だめのドレンで始動空気主管内面が常に濡(ぬ)れており、そのため生じたさびがひどくなっていたので、始動に際して急激な空気の流れでさびが剥(はく)離し、始動弁に噛み込むおそれがあった。
こうして、栄丸は、A受審人ほか9人が乗り組み、船首1.80メートル船尾3.80メートルの喫水をもって平成8年6月6日17時ごろ、鳥取県境港を発し、日本海西部の漁場に向かったが、主機始動の際に始動空気主管内の微細なさびが剥離して6番シリンダの始動弁に噛み込み、翌々8日07時ごろ漁場に着いて操業を開始し、越えて12日09時、主機を270回転にかけてかにかごを揚げていたところ、北緯39度35分東経131度18分の地点で、前示始動弁の噛み込み部で燃焼ガズが吹き抜け、始動空気枝管から主管伝いに各シリンダの始動弁室に次々に逆流し、異常な排気音が機関室と煙突周辺に響いた。
当時、天候は曇で、海上は穏やかであった。
A受審人は、甲板上でかにかごの整理を行っていたとき、排気音異状の連絡を受け、機関室に入ったが、始動空気主管の焼け焦げた臭いと熱気で始動弁の漏れと判断し、主機を運転したまま、変色の甚だしかった6番と3番を含む4個の始動空気枝管から主管までを外して盲板を取り付け、また残りのシリンダの始動弁は、枝管をつぶして燃焼ガスの噴出を止めた。
栄丸は、以後の操業を取り止め、境港に自力で帰港し、精査の結果、主機の全てのシリンダヘッドの始動弁孔に亀(き)裂を生じており、のち損傷したシリンダヘッドの取替え又は亀裂部削正の修理が施され、始動弁及び始動空気管が取り替えられた。

(原因)
本件機関損傷は、主機の始動空気に用いる空気だめのドレンの排除が不十分で、始動空気主管内面が常に濡れ、同面に生じたさびが始動時に剥離して始動弁に噛み込み、運転中に燃焼ガスが同弁から吹き抜けたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、機関の運転管理に当たり、圧縮機が頻繁に補給運転する空気だめを主機の始動空気源とする場合、空気だめにドレンが滞留しないよう、定期的に空気ためのドレンを排除すべき注意義務があった。しかるに、同人は、気が付いたときにドレンを抜けば大丈夫だろうと思い、定期的に空気だめのドレンを排除しなかった職務上の過失により、始動空気配管にドレンが入り、同主管内面にさびの発生を招き、始動時に吹き飛ばされたさびが始動弁に噛み込み、燃焼ガスが他のすべての始動弁に逆流して、各シリンダヘッドに損傷を生じさせるに至った。






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