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1998年(平成10年)

平成10年門審第12号
    件名
漁船第八聖幸丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年5月20日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

吉川進、畑中美秀、清水正男
    理事官
内山欽郎

    受審人
A 職名:第八聖幸丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
各軸受、クランク軸が異状摩耗、ピストンとシリンダライナ焼き付き、過給機が損傷、のち主機換装

    原因
主機の開放整備不十分

    主文
本件機関損傷は、主機の開放整備が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年11月18日14時50分
長崎県千尋藻(ちろも)漁港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八聖幸丸
総トン数 16トン
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 380キロワット
回転数 毎分2,030
3 事実の経過
第八聖幸丸(以下「聖幸丸」という。)は、昭和63年に進水した、いか一本釣りに従事するFRP製漁船で、主機として株式会社小松製作所が製造したEM665A‐A型と呼称するディーゼル機関1基を装備し、油圧多板型クラッチを介してプロペラを駆動するほか、集魚灯等に給電する出力250KVAの220V三相交流発電機を船首側軸端に直結していた。
主機の潤滑油系統は、クランク室底部の油だめに入れられた、標準油量約70リットルの潤滑油が直結潤滑油ポンプで吸引・加圧され、プレート式冷却器と単筒のペーパーフィルタ式こし器を経て、ピストン冷却管と潤滑油主管とに分かれ、同主管から主軸受、クランクピン軸受及びピストンピンに至る経路のほか、カム軸受、カム駆動歯車、動弁装置及び過給機軸受に供給され、各部を潤滑・冷却したのち、再び油だめに戻るようになっていた。
ところで、潤滑油こし器が目詰まりして入口と出口との差圧が2キログラム毎平方センチメートルを超えると、付属の安全弁が開いて潤滑油が同こし器をバイパスし、潤滑油主管への供給が確保され、さらに潤滑油主管の圧力が約0.5キログラム毎平方センチメートルに低下すると船橋の機関操縦パネルに赤ランプとブザーで油圧低下警報が発せられるようになっていたが、同安全弁が作動したことを示す警報装置は設けられていなかったので、同こし器の閉塞状態に気付かないまま運転が続けられると、バイパスした潤滑油中のスラッジや異物で潤滑油系統が汚損するおそれがあった。
A受審人は、本船の就航以来、船長として機関の運転と整備に携わり、普段は出漁前に油だめ内の潤滑油量が検油棒の上限値になるよう、潤滑油の補給を行い、概ね1箇月毎に油だめの潤滑油全量及び同こし器エレメントを取り替えていた。
主機は、平成6年1月末に開放整備が行われ、ストン、シリンダライナ、主軸受、クランクピン軸受など主要部品が新替えされ、その後漁場までの往復と操業中の発電機駆動とに平均して1箇月当たり350時間ばかり運転されていたが、徐々に燃焼室へのかき揚げによる潤滑油の消費量が増えるようになった。
A受審人は、平成8年8月ごろクランク室のオイルミストが白煙状に放出されるようになり、その後、排気ガスの臭いがするようになったことに気付き、また、潤滑油の消費量が著しく増えたことを認めたものの、年末の休漁期まで大丈夫だろうと思い、整備業者に依頼して主機の開放整備を行うことなく、燃焼ガスがクランク室にブローバイして潤滑油の劣化を促進させていることに気付かないまま、運転を続けた。
聖幸丸は、同年11月ごろには出漁前の主機潤滑油補給量が、1日に10リットルほどまでに増加し、定期的に取り替えた潤滑油が短時間のうちに劣化し、同こし器の目詰まりで安全弁が開いた状態が続き、潤滑油主管圧力も低下して各軸受の摩耗が急激に進行していたところ、平成8年11月17日04時30分ごろ主機を回転数毎分1,800(以下、回転数は毎分のものを示す。)にかけて発電機を駆動し、沖合の漁場で操業中、主軸受、クランクピン軸受、シリンダライナ摺動部など主機全体の内部摩擦力が過大となって回転数が低下し、電圧が下がって集魚灯が急に暗くなった。
A受審人は、船橋に上がって集魚灯のブレーカを切り、いったん主機を停止して冷却水量及び潤滑油量を点検したが、冷却水リザーブタンクの水量の減少はなく、検油棒で見た潤滑油量も下限を下回るものではなかったので、回転数低下の理由が思い付かず、ちょうど操業を終える時刻も近かったことから、05時ごろ主機を再始動し、1,200回転に減速し千尋藻漁港に帰港し、聖幸丸を係留して漁獲物の水揚げをしたあと、機関の点検をしないまま帰宅した。
こうして、聖幸丸は、翌18日14時ごろA受審人が船長として、船主である父親と2人で乗り組んで出漁の準備にかかり、潤滑油を補給して主機を始動し、暖機運転したのち1,800回転にかけて発電機ブレーカを入れ、集魚灯をすべて点灯のうえ同人が灯具を点検していたところ、燃焼ガスのブローバイが著しかった1番、5番及び6番の各ピストンがシリンダライナと焼き付き、主軸受、クランクピン軸受の各メタルが過熱して変形し、14時50分千尋藻港外防波堤灯台から真方位297度350メートルの地点で主機が停止した。
当時、天候は晴で風力3の北西の風が吹いていた。
A受審人は、主機を再始動しようと試みたが、全く動かず、運転不能と判断して整備業者に点検、整備を依頼することとした。
聖幸丸は、主機が整備業者の手で開放された結果、各軸受、クランク軸が異状摩耗し、ピストンとシリンダライナが焼き付き、さらに過給機が損傷していることが判り、のち主機は換装された。

(原因)
本件機関損傷は、潤滑油の消費とクランク室オイルミストの放出量が著しく増加した際、主機の開放整備が行われず、ブローバイした燃焼生成物で潤滑油が汚損し、潤滑油こし器が閉塞したまま運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、機関の運転管理にあたり、主機クランク室のオイルミストの放出量が増え、潤滑油の消費が著しく増加したことを認めた場合、そのまま運転を続けると燃焼ガスがブローバイして潤滑油が汚損し、機関の潤滑が阻害されるおそれがあったのであるから、ただちに整備業者に依頼して主機の開放整備を行うべき注意義務があった。しかし、同人は、潤滑油の取替えを定期的に行っているので次の休漁期まで大丈夫だろうと思い、整備業者に依頼して開放整備を行わなかった職務上の過失により、潤滑油系統の汚損と潤滑油の劣化を招き、各軸受、ピストン、シリンダライナなどの損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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