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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年3月5日11時43分 熊野灘布施田水道 2 船舶の要目 船種船名
貨物船日昭丸 総トン数 499トン 長さ 74.91メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
735キロワット 回転数 毎分295 3 事実の経過 日昭丸は、平成2年7月に進水した、ロールペーパー輸送に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で、操舵室から主機の遠隔操縦ができるようになっていた。 主機遠隔操縦装置や操舵機警報などの電源は、発電機母線から変圧整流された直流24ボルトで、同24ボルト系統は蓄電池ともつながっていた。 発電機は、航海中の電力供給用として、容量150キロボルトアンペアのものが機関室に2台装備され、各発電機の原動機は、昭和精機株式会社が製造した、6KFL-T型と称する計画出力136キロワット同回転数毎分1,200の過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関(以下機関室右舷側の発電機原動機を「1号補機」、機関室左舷側の発電機原動機を「2号補機」という。)で、始動及び停止操作は機側で、発電機の切替え及び並列運転操作は機関室内の配電盤でそれぞれ行うようになっていた。 各補機は、歯車装置により一体型の燃料噴射ポンプを直結駆動しており、燃料噴射ポンプ駆動軸(以下「駆動軸」という。)は燃料噴射ポンプ軸にはめ込まれた軸継手との間にシムを挿入してボルトで結合され、、駆動軸のボルト穴が長円形になっていて噴射時期が調整できるようになっていた。また、駆動軸は燃料噴射ポンプ駆動歯車の前後2箇所で玉軸受により支持され、同玉軸受はシリンダブロックにボルト止めされたギヤケースにはめ込まれるようになっていて、クランク室の潤滑油がはねかけ注油されるようになっていた。 本船は、機関部2人または3人の乗り組みで、2直または3直制で機関当直を行い、平素航海中の電力負荷が90ないし100キロワット、甲板機械を運転する出入港時でも110キロワットほどで、発電機1台の容量で十分余裕があったので、出入港時や狭水道通過時などでも発電機の並列運転は実施されず、1号及び2号補機は適宜交互に運転され、各補機の月間の運転時間が約250時間であった。 A受審人は、平成6年5月一等機関士として雇い入れられ、機関長の定期休暇下船中は機関長職を執っていたもので、翌7年11月1号補機の潤滑油の粘度が高くなり、燃焼生成物が多量に混入しているなど、かなり劣化しているのを認めて同油を取り替え、翌8年3月再び同油の劣化を認め、そのまま運転を続けると軸受などが焼き付くおそれがあったが、まだしばらくは大文夫と思い、劣化した潤滑油を取り替えることなく運転を続けた。 本船は、A受審人が機関長としてほか4人が乗り組み、ロールペーパー1,100トンを載せ、船首3.20メートル船尾4.20メートルの喫水で、1号補機を運転し、同8年3月4日15時35分愛媛県川之江港を発し、海上強風警報が発表されていたので布施田水道経由で航行することとして、京浜港東京区に向かった。 1号補機は、川之江港出航後駆動軸玉軸受の潤滑が阻害されて焼き付き、駆動軸と軸継手との結合部の位相がずれて回転が変動し、回転計の指針が激しく振れるようになった。 A受審人は、翌5日11時機関当直に入直して各部を点検中、1号補機の回転計指針が激しく振れているのを認めたが、回転計に注入されているグリスが切れたことによるものと思い、発電機を切り替えるなどの措置をとらないまま、機関室から船尾甲板に出て休息した。 こうして本船は、速力11ノットの全速力にかけ、11時43分少し前布施田灯標を右舷正横に見る地点で転針のため右舷10度をとり、船首が右回転を始めてほどなく、11時43分布施田灯標から真方位326度260メートルの地点において、1号補機駆動軸の玉軸受及びシムが破損するとともに同軸の後端部が折損した。 当時、天候は晴で風力5の北西風が吹き、潮候はほぼ低潮時であった。 本船は、1号補機損傷の結果、発電機の気中遮断機がトリップし、蓄電池を除いて船内電源を喪失し、操舵機油圧ポンプ停止により操舵不能となった。 船尾甲板で1号機排気の異常に気付いたA受審人は、機関室に向かう途中船内電源が喪失したので急ぎ2号補機を始動し、電源を回復させた。 本船は、船橋で操船中の船長が操舵機電源異常警報を聞いて直ちに主機を全速後進とし、両舷投錨させるなどの措置を取ったものの、同水道の浅礁に乗り揚げ、引船の救援を得て離礁したのち自力にて揚げ地に向かい、荷揚げ後1号補機及び船体の修理が施された。
(原因) 本件機関損傷は、補機潤滑油の性状管理が不充分で、駆動軸玉軸受の潤滑が阻害されるまま運転が続けられたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、補機の潤滑油が劣化したのを認めた場合、そのまま運転を続けると軸受などが焼き付くおそれがあったから、劣化した潤滑油を取り替えるべき注意義務があった。しかし同受審人は、まだしばらくは大丈夫と思い、劣化した潤滑油を取り替えなかった職務上の過失により、駆動軸玉軸受の破損、駆動軸の折損などを生じさせ、電源喪失して操舵不能に陥り、浅礁に乗り揚げるに至った。 |