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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年1月29日10時20分 犬吠埼南西方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船第十六大師丸 総トン数 300トン 全長 59.56メートル 機関の種類
過給機付4サイクル8シリンダ・ディーゼル機関 出力
1,155キロワット 回転数 毎分605 3 事実の経過 第十六大師丸は、平成元年11月に進水した大中型まき網漁業船団の鋼製運搬船で、主機として、株式会社新潟鉄工所が製造した8MG28HX型ディーゼル機関を据え付け、各シリンダを船尾側から順番号で呼称し、推進器として可変ピッチプロペラを装備していた。 主機は、使用燃料をA重油とし、連続定格出力2,206キロワット及び同回転数毎分750(以下、回転数は毎分のものを示す。)の機関に負荷制限装置を付設し、計画出力1,155キロワット及び同回転数605として受検・登録したものであるが、就航後に同制限装置を解除し、航海中の全速力前進の回転数を725までとして運転され、年間の運転時間が約4,000時間となっていた。 主機の吸気弁は、バルブローテーター付きで各シリンダに2個設けられ、弁座との当たり面にステライトが2ミリメートルの厚さに溶着された耐熱鋼製のものであったが、長期間使用すると当たり面の摩耗、腐食、カーボンの付着などから当たりが不良となり、燃焼ガスが吹き抜けるなどして割損に発展するおそれがあることから、保守整備については2年ごとあるいは12,000時間ごとに弁座を削正するか、必要に応じて弁を取り替えるように取扱説明書に記載されていた。 A受審人は、本船就航当初から機関長として乗り組んで主機の運転管理に当たり、全吸気弁を平成4年2月及び同6年2月の各検査時に摺(す)り合わせ整備したものの、衰耗計測や探傷検査を行わないまま就航以降継続使用し、翌7年5月20,000時間を超えて使用されていた吸気弁のうち、2番シリンダの吸気弁が運転中に割損したとき、当時まぐろ漁の最盛期で、修理に時間を割きたくなかったことから、2番シリンダカバーのみを開放して吸気弁2個を新替えし、他シリンダの吸気弁は、平成8年2月に予定の中間検査まで何とかもつだろうと思い、点検することなく運転を続けた。 ところが、同じように衰耗計測や探傷検査を行わないまま長時間使用されていた他シリンダの吸気弁のうち3番シリンダ右舷側の吸気弁も、当たり不良から吹き抜け傾向となっており、運転が続けられるうち吹き抜け部に亀(き)裂を生じ、運転中の繰り返し応力が作用して亀裂が徐々に進行した。 こうして、本船は、A受審人ほか6人が乗り組み、同8年1月28日静岡県戸田漁港を発し、同県石廊埼南方沖合の漁場に至り、翌29日約340トンのさばを積み取り、水揚げの目的で、船首3.5メートル船尾5.5メートルの喫水をもって、同日00時10分千葉県銚子港に向け同漁場を発進し、主機を回転数約725にかけて運転中、10時20分外川港東防波堤灯台から真方位213度1.7海里の地点において、亀裂が進行していた3番シリンダ右舷側の吸気弁が割損し、その破片が過給機タービン内部に飛び込んでノズルリング、ローター羽根等が損傷し、過給機が異音を発した。 当時、天候は晴で風力3の西風が吹き、海上は穏やかであった。 損傷の結果、本船は主機3番シリンダの燃料を遮断し、回転数約500の低速回転で銚子港に入港し、応急修理ののち全吸気弁及び損傷部品を取り替えて修理された。
(原因) 本件機関損傷は、吸気弁の割損が生じてこれを修理する際、同弁と同じように衰耗計則や探傷検査を行わないまま長時間使用されていた他シリンダの吸気弁の点検が不十分で、燃焼ガスの吹き抜け傾向となっていた他シリンダの吸気弁が取り替えられず、亀裂が生じて進行するまま運転が続けられたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、吸気弁の割損が生じてこれを修理する場合、同弁と同じように衰耗計測や探傷検査を行わないまま長時間使用されていた他シリンダの吸気弁も、燃焼ガスの吹き抜け傾向や亀裂などが生じているおそれがあったから、他シリンダの吸気弁を点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、次回検査時まで何とかもつだろうと思い、他シリンダの吸気弁を点検しなかった職務上の過失により、他シリンダの吸気弁の割損、過給機損傷などを生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |