|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成7年10月9日20時00分 山口県徳山下松港 2 船舶の要目 船種船名
油送船第五光洋丸 総トン数 698.75トン 全長 61.90メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力
1,176キロワット 回転数 毎分650 3 事実の経過 第五光洋丸(以下「光洋丸」という。)は、昭和56年9月に進水し、山口県徳山下松港から瀬戸内海一円及び沖縄県諸島の各港間において液化石油ガス輸送に従事する船尾船橋型の鋼製油送船で、主機としてダイハツディーゼル株式会社が製造した6DSM-28S型と称するディーゼル機関1基を備え、交流電圧445ボルトの発電機として、主機の右舷側に容量300キロボルトアンペアの原動機駆動1号発電機及び主機の船尾側に要領150キロボルトアンペアの主機駆動2号発電機のほかに、機関室上段の船尾側中央部に容量30キロボルトアンペアの原動機駆動3号発電機(以下「3号発電機」という。)をそれぞれ備え、航行時には主として主機駆動2号発電機を、入出港時及び荷役作業時には原動機駆動1号発電機を運転するようになっていた。 3号発電機を駆動する原動機(以下「補機」という。)は、ヤンマーディーゼル株式会社が製造した3SML型と称する定格出力27キロワット同回転数毎分1,800の4サイクル3シリンダ・ディーゼル機関で、3号発電機を直結し、荷役作業のない停泊時の船内電源として単独で運転されていた。 補機の冷却は、海水直接冷却方式で、船底の海水吸入弁から直結の冷却海水ポンプによって吸引加圧された冷却水が、潤滑油冷却器を経て冷却水入口主管に至り、同入口主管から各シリンダのシリンダジャケット及びシリンダヘッドを順に冷却したのち、冷却水出口集合管を経て船外吐出弁から排出されるようになっていたが、空船時、同ポンプが空気を吸い込み、冷却水の圧力が著しく低下して補機の冷却がたびたび阻害されたことから、平成元年9月ごろ入渠した際に、同ポンプを取り外して冷却水入口弁を新たに取り付け、機関室下段の左舷側に備えられた海水サニタリポンプによって約2キログラム毎平方センチメートルに加圧された冷却水が、同入口弁から潤滑油冷却器などを順に経て船外に排出されるようになっていた。 ところで、補機は、同機の左舷側前部に設けられた操縦ハンドルで始動、停止を行うようになっており、同ハンドルの上方に回転計、冷却水圧力計及び潤滑油圧力計を組み込んだ計器盤が備えられていたほか、冷却水温度上昇及び潤滑油圧力低下の各警報装置が設けられていた。 また、補機の各シリンダには、シリンダヘッド出口冷却水の温度を計測することができるよう、同ヘッドの冷却水出口部に温度計の保護筒を兼ねた小判型フランジ付冷却水出口温度計挿入座(以下「温度計挿入座」という。)がゴムパッキンを介してボルト2本で取り付けられていた。 A受審人は、昭和58年3月に一等機関士として乗り組んだのち、平成6年6月に機関長に昇格し、機関の運転と整備に従事していた者で、補機の整備にあたっては、空気調和装置の運転時間の増加、電気機器の増設などにより電力の需要が増し、このため捕機の負荷が増大してピストンなどの汚れが激しくなったので、1年ごとにピストンを抜き出し、ピストンリングの取り替え、吸気弁及び排気弁などの整備を行っていた。 翌7年10月上旬、A受審人は、出港作業を終えて機関室の巡視を行っていたとき、停泊時に運転され、冷却水入口弁が閉弁されていた補機の前部右舷側の床面や補機に近接していた機関室倉庫の壁面が漏洩(ろうえい)した冷却水で汚れているのを発見し、冷却水の漏洩箇所を調べたところ、1番シリンダの温度計挿入座取付けボルトに著しい緩みが生じているのを認めた。しかしながら、同人は、1番シリンダ以外に冷却水が漏洩した様子がなかったので大丈夫と思い、速やかに全シリンダの同ボルトを十分に点検することなく、1番シリンダの同ボルトの増締めを行っただけであったので、航行中の船体の振動及び補機の激しい振動などの影響を受けていつしか2番及び3番シリンダの同ボルトにも緩みが生じるようになっていて、これが次第に進行する状況となっていることに気付かなかった。 こうして、光洋丸は、A受審人ほか6人が乗り組み、積荷の目的で、同月9日18時40分徳山下松港に入港し、徳山沖ノ筏灯台から真方位220度1.6海里の地点に投錨して停泊を開始し、機関部員が補機を始動して船内電源を原動機駆動1号発電機から3号発電機に切り替えた。ところが、光洋丸は、機関室を無人として補機を運転中、3番シリンダの温度計挿入座取付けボルトが運転中の振動により大きく緩み、20時00分前示の投錨地点において、温度計挿入座から噴出した冷却水が3号発電機に降りかかり、船内電源が喪失した。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、海上は穏やかであった。 自室で休息していたA受審人は、突然室内の全照明が消えたことから船内電源の喪失に気付いて機関室に急行し、補機の3番シリンダから冷却水が墳出しているのを認め、直ちに冷却水入口弁を閉弁のうえ補機を停止し、原動機駆動1号発電機を始動して船内電源を復旧したのち、補機の各部を精査した結果、2番シリンダの温度計挿入座取付けボルトにも著しい緩みを生じていることが判明し、のち絶縁抵抗が著しく低下した3号発電機を取り替えた。
(原因) 本件機関損傷は、補機1番シリンダの温度計挿入座取付けボルトに著しい緩みを認めた際、全シリンダの同ボルトの点検が不十分で、機関の振動などの影響を受けて同ボルトに緩みが生じたまま運転され、3番シリンダの温度計挿入座から噴出した冷却水が3号発電機に降りかかったことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、補機1番シリンダの温度計挿入座取付けボルトに著しい緩みを認めた場合、補機の振動が激しかったのであるから、冷却水の漏洩により不測の事態を招くことのないよう、速やかに全シリンダの同ボルトを十分に点検すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、1番シリンダ以外に冷却水の漏洩した様子がなかったので大丈夫と思い、速やかに全シリンダの同ボルトを十分に点検しなかった職務上の過失により、同ボルトの緩みにより冷却水の噴出を招き、3号発電機の絶縁抵抗を著しく低下させて船内電源を喪失させるに至った。 |