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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年11月16日23時40分 兵庫県姫路港 2 船舶の要目 船種船名
貨物船宮津丸 総トン数 328トン 登録長 61.58メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力
735キロワット(定格出力) 回転数
毎分340(定格回転数) 3 事実の経過 宮津丸は、昭和62年に進水した鋼製貨物船で、主機として、株式会社赤阪鉄工所が同年に製造したK28R型ディーゼル機関を装備し、軸系にクラッチ式逆転機を備え、船橋の遠隔操縦装置で、主機及び逆転機の運転操作ができるようになっていたが、主機の発停は機関室で暖機及び冷機作業とともに行われていた。 主機の潤滑油は、クランク室底部油だめ(標準張込み量約450リットル)から、直結の潤滑油ポンプにより吸引されて2.8ないし3.3キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)に昇圧され、複式こし器及び潤滑油冷却器を経て入口主管に至り、主軸受等各部に注油されるほか、同ポンプ出口から一部が圧力調整弁を介してサブタンク(保油量約700リットル)に送油され、同タンクのオーバーフロー油が油だめに戻るようになっていた。また、同油系統には、電動の予備潤滑油ポンプ(以下「予備ポンプ」という。)が備えられていた。 予備ポンプは、スターデルタ起動の3相かご型誘導電動機によって駆動され、主機発停の際の油通しに使用されるほか、始動器に設けた切替えスイッチで手動・断・自動のうち自動を選択しておけば、主機運転中潤滑油圧力が異常低下したとき、自動始動して主機を保護するようになっていた。 なお、潤滑油圧力関係の主機保護装置の各設定値は、運転中いずれも入口主管で、予備ポンプの自動始動が2.2キロに、警報装置の作動が2.0キロに、また主機非常停止が1.7キロに、それぞれ設定されていたほか、同油圧が1.7キロ以下のときは主機が始動できないよう、インターロック回路が設けられていた。 A受審人は、平成8年2月から機関長として本船に乗り組み、機関部員1人を指揮して機関の運転管理にあたり、主機の発停に際しては、始動前に予備ポンプを運転して油通しを行い、主機運転中は始動器の切替えスイッチを自動位置とし、運転終了後、主機を停止したとき同ポンプが自動始動していることを確認し、しばらく油通ししたのち同ポンプを停止するようにしていた。ところが、いつしか始動器内部のタイマーの接点が接触不良となり、同年11月13日12時前、京浜港港外で錨泊スタンバイ中、機関終了となって主機を停止した際、予備ポンプが始動せず、警報装置の作動でこれに気付いた同人が、始動器のスイッチ類を操作するうち同ポンプが始動したので、油通しを行ったうえスタンバイを終えた。 翌14日05時ごろA受審人は、着岸シフトのスタンバイに備えて主機の始動準備に取り掛かり、予備ポンプを運転しようとしたが始動せず、始動器を種々操作しても始動できないでいるうち、船長から機関用意を急がされ、主機インターロックの電気回路を取り外し、油通しができないまま短時間のターニングを行っただけで主機を始動した。 本船は、05時25分抜錨してシフトを開始し、積荷の目的で、06時25分同港川崎区の岸壁に着岸した。 着岸後A受審人は、予備ポンプ及び始動器を点検し、始動器の不良と判断してリレーを取り替えるなどしたが修理できなかった。そこで同人は、しばらくの期間主機の油通しを省略しても大事に至ることはあるまいと思い、電気業者に連絡のうえ状況を説明するなどして、同始動器を早急に修理することなく、大分県津久見港に寄港したとき業者に点検させるつもりで、同ポンプの使用をあきらめた。 こうして本船は、A受審人ほか3人が乗り組み、鉄鋼廃材1,010トンの積載を終え、油通しを行わないまま主機を始動して同日18時10分京浜港を出港し、翌々16日09時45分兵庫県姫路港飾磨区の岸壁に着岸し、間もなく揚荷を開始した。このとき主機は、京浜港港外での抜錨時以降、油通しを行わずに発停が繰り返された影響で、3番シリンダ船首側主軸受の軸受メタルにかき傷が生じ始めていた。23時ごろ本船は、荷役を一時中断のうえ離岸して港内で仮泊することとなり、同時20分主機を始動ののちシフトを開始したところ、油膜が途絶えたまま始動されたため同メタルのかき傷が急速に進行して軸受間隙(かんげき)が増大し、23時40分飾磨東防波堤灯台から真方位350度1,700メートルの地点で、主機潤滑油圧力低下の警報装置が作動した。 当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、港内は穏やかであった。 船尾甲板配置に就いていたA受審人は、船長から主機警報ブザーが鳴っている旨知らされて機関室に急行し、潤滑油圧が1.6キロに低下して警報ベルが鳴っていることを認め、船長に報告したが、仮泊地点が間近であと少し主機を使用したいと告げられ、やむなくそのまま運転を続けた。同時50分ごろ同人は、機関終了の連絡を受けて主機を停止したところ、3番シリンダ主軸受メタルがクランクジャーナルに溶着したことから、続いてエアランニングを行ったが回転せず、クランク室内を点検して同軸受が焼損していることを発見した。 本船は、引船に曳航(えいこう)されて翌17日12時過ぎ着岸し、揚荷を終えたのち、主機メーカーの技術員が主機を点検したところ、3番シリンダ主軸受部の著しい過熱によって台板も熱変形していることが判明し、現場での修理は困難と判断され再び引船に曳航されて同月20日姫路港を出港し、翌21日大分県佐伯港の造船所岸壁に着岸したうえ、クランク軸、全主軸受メタル、3番シリンダ船首側主軸受キャップ等が新替えされ、台板のひずみを修正して修理されたほか、予備ポンプ始動器のスターデルタ結線切替え用のタイマーが新替えされた。
(原因) 本件機関損傷は、予備ポンプが始動器の故障によって運転できなくなった際の措置が不適切で、油通しが行われないまま主機の発停が繰り返されたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、主機の運転管理にあたり、予備ポンプの始動器が故障して主機の油通しができなくなったことを認めた場合、油通しを行わないまま、主機を発停すると軸受等が焼損するおそれがあったから、電気業者に連絡するなどして、始動器を早急に修理すべき注意義務があった。ところが、同人は、しばらくの間主機の油通しを省略しても大事に至ることはあるまいと思い、同始動器を早急に修理しなかった職務上の過失により、主軸受等の油膜が十分形成されないうちに主機を始動することを繰り返し、クランク軸等を焼損させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |