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1998年(平成10年)

平成9年長審第68号
    件名
漁船大東丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年5月21日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

安部雅生、原清澄、保田稔
    理事官
上原直

    受審人
A 職名:大東丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
主機を換装

    原因
主機警報装置の点検不十分

    主文
本件機関損傷は、主機警報装置の点検が不十分であったことによって発生したものである。
なお、主機の潤滑油ポンプ、軸受等が損傷したのは、本件発生後、主機オイルパン内の潤滑油点検が不十分であったことによるものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年1月28日05時00分ごろ
長崎県五島列島小値賀島殿崎鼻南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船大東丸
総トン数 4.91トン
登録長 10.74メートル
機関の種類 4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 51キロワット
3 事実の経過
大東丸は、昭547月に進水したFRP製漁船で、主機として、ヤマハ発動機株式会社製のMD70Sと称する定格回転数毎分1,150の警報装置付密閉清水冷却方式ディーゼル機関を備え、船体中央部の甲板上に、前部が上下2段に分かれた高さ約1.5メートルの操舵室を配置し、同室の下段右舷側壁内面に主機の計器盤と警報盤を、同室の上段下面に操舵輪、コンパス、主機遠隔操縦レバー等をそれぞれ取付けてあった。
主機の冷却水系統は、主機直結の冷却清水ポンプにより、規定張込量44リットルの清水が冷却清水タンク、冷却清水クーラー、潤滑油クーラー、サーモスタット等を循環しながら主機を冷却する冷却清水系統と、主機直結の冷却海水ポンプにより、船底の冷却海水吸入口から吸引加圧された海水が、冷却清水クーラーを経て、主機の排気とともに船尾から放出される冷却海水系統とがあり、冷却清水系統の随所にエチレンプロピレンゴム製の管継手(以下「ゴム継手」という。)を使用し、主機出口の冷却清水温度が摂氏約90度を超えると、主機警報装置が作動し、警報盤上で同温度の異常上昇を示す赤ランプが点灯するとともに、警報ブザーを吹鳴するようになっていた。
A受審人は、平成7年11月に中古の本船を購入したところ、速力を上げるにつれ、船首が上がって前方の見通しが悪くなるので、操舵室の上段を約0.2メートル高くしたうえ、同室の屋根に蓋付きの開口部を設けて首を出せるようにしたのち、専ら独りで乗組んで刺網漁業に従事するかたわら、主機の取扱いにあたり、不具合箇所を認めたならば修理業者に依頼して同箇所を整備していた。
ところで、A受審人は、航行中は見張りと操船にあたるため、主機計器盤の監視を十分に行えなかったが、主機を停止するたびに潤滑油圧力低下の警報を発していたことから、主機警報装置に支障を生じていることはあるまいと思い、同装置の点検を十分に行うことなく、いつしか同装置が故障し、主機出口の冷却清水温度が摂氏90度を超えても警報を発しなくなったことに気付かないまま、運航に携わっていた。
こうして本船は、A受審人が独りで乗組み、平成9年1月28日02時ごろ長崎県前方漁港を発し、同漁港の西方10海里ばかりに位置する平島の西岸近くに至り、前日仕掛けておいた刺網を揚げ、同人が操舵室で見張りと操船にあたり、生簀(いけす)に入れた漁獲物保護のため、主機の回転数を毎分700ないし750の微速力として帰港中、船底の冷却海水吸入口に海中の浮遊物が付着して主機へ海水がほとんど送られなくなり、やがて主機出口の冷却清水温度が摂氏90度を超えるようになったものの、同温度の異常上昇を示す警報を発しないでいるうち、冷却清水クーラーから冷却清水ポンプに至る配管中のゴム継手が過熱して軟化したため、同継手の冷却清水クーラー側がバンドとともに管から外れ、冷却清水が外部に噴出してなくなり、冷却清水ポンプが空運転となって同ポンプの軸封部が損傷したのみならず、05時00分ごろ小値賀港島防波堤灯台から真方位084度1.5海里ばかりの地点において、3番シリンダのピストンがシリンダライナと焼付き、主機が異音を発した。
当時、天候は晴で風力3の南西風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、主機の異状に気付いて機関室内を見たところ、同室内に湯気が充満していたので直ちに主機を停止し、湯気が少なくなってから主機を点検した結果、主機全体が過熱しているとともに、前示ゴム継手が外れているのを認め、主機が冷えるのを待って同継手を応急的に元に戻したのち、冷却清水を張込んで主機を始動し、10時ごろ自力で帰港した。
帰港後、A受審人は、修理業者に外れたゴム継手を新替えさせただけで操業を再開したところ、主機冷却清水タンク内の水量が著しく減少するようになったのに気付いたが、同タンク内への清水補給を繰返すだけで、最大張込油量を38リットルとした主機オイルパン内の潤滑油を点検しなかったので、冷却清水ポンプの軸封部から同油中に冷却清水が混入し続けていることに気付かなかった。
A受審人は、2日ほど操業を行ったのち、主機冷却清水の減少が一向に収まらないので初めて同油の点検を行ったところ、同油が変色しているのに気付き、修理業者に主機の開放整備を依頼し、ピストンとシリンダライナの焼付きのみならず、潤滑油ポンプ、主軸受、クランクピン軸受、カム軸受等の異常摩耗も認めたものの、部品の早期入手が困難であったことから主機を換装した。

(原因)
本件は機関損傷は、主機警報装置の点検が不十分で、同装置が故障したまま放置され、漁場から微速力で帰港中、船底の冷却海水吸入口に海中の浮遊物が付着して主機の冷却清水温度が異常に上昇した際、同温度の異常上昇を示す警報を発しないで、ピストン、シリンダライナ等が過熱したまま、主機の運転が続けられたことによって発生したものである。
なお、主機の潤滑油ポンプ、軸受等が損傷したのは、応急修理して自力帰港したのち、主機オイルパン内の潤滑油点検が不十分で、同油中に冷却清水が混入し続けたまま、主機の運転が行われたことによるものである。

(受審人の所為)
A受審人は、独りで船長として乗組み、主機の取扱いにあたる場合、航行中は操舵室で見張りと操船に従事し、主機計器盤の監視を十分に行えないのであるから、計器に代って異状を察知するための主機警報装置を故障したまま放置することのないよう、停泊中に修理業者に依頼するなどして同装置の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、主機を停止するたびに潤滑油圧力低下の警報を発していたことから、主機警報装置に支障を生じていることはあるまいと思い、同装置の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、漁場から帰港中、船底の冷却海水吸入口に海中の浮遊物が付着し、主機の冷却清水温度が異常に上昇した際、警報を発しない事態を招き、ピストン、シリンダライナ等の過熱による損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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