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1998年(平成10年)

平成9年横審第29号
    件名
漁船第三十三伊東丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年5月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

川原田豊、長浜義昭、河本和夫
    理事官
花原敏朗

    受審人
A 職名:第三十三伊東丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
全シリンダのクランクピン軸受と同軸受ボルト、ピストンリング、吸排気弁棒、燃料噴射ポンプのプランジャーを取り替え

    原因
主機操縦装置のリンク機構に対する点検不十分

    主文
本件機関損傷は、主機操縦装置のリンク機構に対する点検が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年7月18日22時30分ごろ
犬吠埼東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十三伊東丸
総トン数 315トン
登録数 49.88メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,154キロワット
3 事実の経過
第三十三伊東丸は、平成2年2月に進水した、大中型まき網漁業に従事する鋼製運搬船で、主機として株式会社新潟鉄工所が製造し、連続最大回転数毎分605の8MG28HX型と称する、各シリンダに船尾側から順番号が付されそれぞれに独立の燃料噴射ポンプを備えた、過給機付4サイクル8シリンダ・ディーゼル機関とこれに直結の減速逆転機を装備し、機関室で主機の始動と停止を行い、操舵室の操縦盤で遠隔操縦を行っていた。
主機は、燃料のA重油がサービスタンクからこし器を通り、主機入口弁及び直結ポンプを経て各燃料噴射ポンプに送られ、そのポンプ吐出量が同ポンプのラックによって操縦装置のリンク機構を介しガバナ制御されており、ガバナの作動が燃料加減軸などのガバナ側リンクから機側の燃料ハンドルを経て、各シリンダのラックを同時に操作するレイシャフトに伝えられ、ラックをポンプ側へ押し込むことにより回転上昇して出力が増加する一方、設定値を越えた回転数上昇や潤滑油圧力低下あるいは操舵室操縦盤で非常停止して、ガバナ側リンクに装着の燃料遮断装置を作動させるか、燃料ハンドルを停止位置に引くことにより、ラックを引き出し停止するようになっていた。
また機側のリンク機構は、燃料ハンドルのすぐ横で燃料加減軸などのガバナ側リンクとレイシャフトが、ユニボール及びリンクボールとそれぞれ呼ばれる金具によって接続されており、ユニボールのねじの呼びがM10のボルト部分を継手として、リンクボールと連結のうえロックナットが施されていた。
本船は、千葉県銚子港を夜出港して同港東方沖の漁場で操業を行い、翌朝帰港して水揚げする、月間20日ほどで主機運転時間が年間約2,000時間の運航に従事し、毎年2月ごろに船体や機関の整備を行い、主機については同6年2月の定期検査で過速度停止装置、同8年2月の中間検査で非常停止装置が検査され、機関室でA受審人が始動後、毎分420回転の停止回転として遠隔操縦に切り換えたあと、機関の連続定格出力2,206キロワット、同回転数毎分750を目安に計画出力以上の回転数で運転していた。
ところで機側の操縦リンク機構は、定期検査で操縦装置を受検後いつしかロックナットが緩んでユニボールとリンクボールの連結部にあそびが生じ、運転中の振動やガバナ制御による微動の影響を受けるうち、同部のねじが両金具とも次第に摩耗する状況となった。
A受審人は、主機を始動する際、レイシャフトやラックに固着や緩みがないか、操縦装置のリンク機構に直接手を触れて動きを確かめたり、運転中のラックの動きに注意するなど、十分に点検すれば金具の連結部に緩みが生じ、それが外れると制御不能になるおそれがあるのを認め得る状況であったが、見回りのときに適宜レイシャフト周りのラックや軸受に注油するなどしていたものの、一べつして異常を認めなかったので大丈夫と思い、リンク連結部を長期間点検しないまま運転を続けた。
こうして本船は、A受審人ほか7人が乗り組み、同8年7月18日22時銚子港を漁場向け出港後、主機を毎分650回転として運転中、経年的にねじの摩滅した前示連結部が遂に離脱してガバナ側リンクとレイシャフトの接続が外れ、燃料噴射ポンプのラックが緩衝ばねの作用などで押し込まれる状況となり、主機の回転が急上昇して警報とともに過速度停止装置が作動したが、燃料遮断のエアーシリンダがガバナ側リンクにあるためその作動がレイシャフトに伝わらず、同日22時30分ごろ犬吠埼灯台から真方位92度約8海里の地点において、回転計を振り切った1,000回転以上の過速度状態となった。
当時、天候は曇で風力1の北東風が吹き、海上は穏やかであった。
過速度警報に気付いたA受審人は、待機していた食堂から機関室に行き、主機を停止しようと機側の燃料ハンドルを停止位置に引いたが停止せず、燃料の主機入口弁を閉め供給を止めてようやく停止したが、本船は運航不能となって銚子港に曳(えい)航され、開放点検のうえ損傷の認められた全シリンダのクランクピン軸受と同軸受ボルト、ピストンリング、吸排気弁棒や固着状態となった燃料噴射ポンプのプランジャーを取り替えるなど修理された。

(原因)
本件機関損傷は、主機を運転する際、操縦装置のリンク機構に対する点検が不十分で、緩みを生じたリンク連結部が離脱して制御不能となり、過速度運転したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機を運転する場合、操縦装置が制御不能になることのないよう、リンク機構に対しレイシャフトの動きを確かめるなど、同装置を十分に点検すべき注意義務があった。しかるに同人は、一べつして異常を認めなかったので大丈夫と思い、同装置を十分に点検しなかった職務上の過失により、緩みを生じていたリンク連結部が離脱して過速度状態となり、全シリンダのクランクピン軸受などを損傷するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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