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1998年(平成10年)

平成9年函審第62号
    件名
漁船第三十八翼丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年5月21日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大山繁樹、米田裕、大石義朗
    理事官
里憲

    受審人
A 職名:第三十八翼丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
左バンク4、5番のピストン、シリンダライナ焼損、右バンク5番及び左バンク4、5番のシリンダヘッド熱割れ、6本のシリンダライナに焼損、左バンク4番及び5番の連接棒曲損

    原因
主機冷却清水量の点検不十分

    主文
本件機関損傷は、主機冷却清水量の点検が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成6年9月13日09時30分
北海道知床半島東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十八翼丸
総トン数 19トン
全長 19.18メートル
機関の種類 過給機付2サイクル12シリンダ・V型ディーゼル機関
出力 606キロワット
回転数 毎分2,170
3 事実の経過
第三十八翼丸(以下「翼丸」という。)は、平成3年8月に進水し、刺網漁業などに従事する鋼製の漁船で、主機としてアメリカ合衆国ゼネラルモーターズ社が平成2年10月に製造したGM12V-92TA型と呼称するディーゼル機関を装備していた。
主機は、右舷及び左舷の各シリンダをそれぞれ右バンク及び左バンクと呼び、両バンクともシリンダに船首方から1番ないし6番の順番号を付し、3シリンダ一体型のシリンダヘッドを装備し、各シリンダヘッドには、1シリンダ当たり4個の排気弁が装着されていた。
主機の冷却方式は、清水密閉循環冷却式で、主機直結駆動の冷却清水ポンプによって加圧された清水が、シリンダジャケット、シリンダヘッド、排気マニホルドなどを冷却したのち、自動温度調整弁で、清水冷却器を内蔵した冷却清水タンクを経由するものと、同タンクをバイパスするものとに分かれ、再び冷却清水ポンプの吸入側で合流するようになっていた。また、冷却清水出口集合管の水温が設定値より上昇すると冷却清水温度上昇警報装置が作動し、操舵室の主機計器盤に組み込まれた警報ブザーが鳴るようになっており、清水の水量点検及び補給は、冷却清水タンクの補給水キャップを外して行うようになっていた。
A受審人は、翼丸に建造以来船長として乗り組んで日帰り操業に従事し、機関の運転管理にもあたっていたもので、主機の冷却清水を平成5年12月整備業者に依頼して全量新替えし、不凍液などを投入してその後の運転にあたっていたところ、翌6年9月10日ごろ、主機潤滑油圧力低下警報用の検出端が故障して警報ブザーが連続作動状態となり、整備業者から故障部品を取り寄せるのに時間がかかるので待ってくれるように言われ、修理を終えるまで警報スイッチを切って主機を運転することとした。
そのころ、主機の冷却清水量は、前示の新替え及び不凍液没入後長期間一度も補給されないまま運転されていたことから、冷却清水ポンプのシール部からの漏水など、主機運転中避けることのできない微少量の漏洩(えい)のため、不足気味の状態となっていた。
翼丸は、A受審人ほか3人が乗り組み、刺網漁業の目的で、平成69130100分北海道羅臼漁港を発し、0345分ごろ知床岬北東方沖合の漁場に至って操業を開始した。
A受審人は、発航に先立ち警報スイッチを切ったままの主機を始動したが、その際、これまで主機からの漏水が見当たらなかったことから冷却清水が減少していることはあるまいと思い、同清水量を点検しなかったので、冷却清水タンクの水位が著しく低下した状態となっていることに気付かなかった。
こうして、翼丸は、08時ごろ操業を終え、主機を回転数毎分2,000にかけて羅臼漁港に向け航行中、主機の冷却清水不足から冷却清水ポンプが空気を吸引するようになり、冷却清水が循環されずに温度上昇して警報設定値に達したものの、警報スイッチを切っていたことからA受審人がそのことに気付かないまま運転が続けられ、やがて、左バンク4、5番のピストン、シリンダライナが過熱膨張して焼損を、右バンク5番及び左バンク4、5番のシリンダヘッドの弁間に過熱による熱割れをそれぞれ生じるなどし、09時30分知円別港東防波堤灯台から真方位117度1.6海里の地点において、主機の回転数が低下した。
当時、天候は晴で風力1の北東風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、主機を停止回転として様子をみたのち停止して冷却清水タンクの水量を点検したところ、水面が見えないほど水位が低下しているのを認め、ポリ容器に積んでいた約18リットルの清水を補給し、主機を始動して航行を再開し、羅臼漁港に入港後、修理業者に回転低下原因の調査を依頼して主機を開放点検した結果、前示損傷のほか6本のシリンダライナに焼損が、左バンク4番及び5番の連接捧にシリンダヘッドからの漏水による水撃作用で曲損がそれぞれ生じており、のちに損傷部品を新替えした。

(原因)
本件機関損傷は、発航に先立ち警報装置が使用できない状態となっていた主機を始動するにあたり、冷却清水量の点検が不十分で、冷却清水が不足したまま運転が続けられてピストン、シリンダヘッドなどが過熱したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、発航に先立ち主機を始動する場合、警報装置が故障して使用できなかったのであるから、主機が冷却清水不足により過熱したまま運転されることのないよう、始動前に同清水量を十分に点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、これまで主機からの漏水が見当たらなかったので冷却清水が減少していることはあるまいと思い、始動前に同清水量を十分に点検しなかった職務上の過失により、冷却清水不足による過熱を招き、ピストン、シリンダライナに焼損を、シリンダヘッドに熱割れを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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