|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成7年7月26日09時ごろ 千葉県勝浦港 2 船舶の要目 船種船名
漁船第五十八福徳丸 総トン数 99.96トン 長さ 28.02メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 441キロワット 3 事実の経過 第五十八福徳丸は、昭和53年1月に進水した、かつお一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、主機には株式会社松井鉄工所が製造した、連続最大回転数毎分340のMS245GTSCと称する、各シリンダに船首側から順番号の付された、海水冷却の過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関を装備し、各シリンダヘッド上部には3弁式になった吸排気等の各弁として、シリンダヘッド付きの吸気弁や弁箱式の排気弁及び圧縮空気の起動弁が中央の燃料弁周りに、また指圧器弁が排気や吸気各集合管と反対側の側面にそれぞれ取り付けられていた。 主機のシリンダヘッドは、ねずみ鋳鉄品(FC25)製で、シリンダジャケットを経てシリンダヘッドに送られた冷却水が、径109ミリメートル(以下「ミリ」という。)の排気側及び同72ミリの吸気側2個の、吸排気各弁の燃焼室開口部と各集合管を連絡するガス通路周囲の冷却壁などを冷却し、一部が排気弁箱にも分岐したうえ、冷却水出口管で合流し船外に排出されていた。 本船は、A受審人ほか18人が乗り組み、勝浦港から100マイルばかりの沖合漁場における、1航海が3ないし7日の操業に月間5航海ほど周年で従事し、同受審人ら機関部員4人が適宜に見回りや計測など機関当直しながら、漁場で漂泊する夜間以外は、全速力を毎分320回転として主機を年間6,000時間ほど、冷却水温度等に特に異常を認めない状態で運転していたところ、2番シリンダヘッド排気ガス通路周囲の厚さ約12ミリの冷却壁に、スケールが経年的にかなり付着するなどしていつしか船首側上部に亀(き)裂を生じ、排気側に冷却水が微量漏えいして排気弁の開弁時シリンダ内に流入する状況となった。 ところでA受審人は、いつも機関室で主機の始動停止を行っていたが、冷却水出口温度が摂氏40度とほぼ一定していたことから、冷却水系統には異常ないものと思い、始動前に指圧器弁を開放してエアー吹かししたりターニングするなど、シリンダ内異物の確認や排除のための始動準備を行わないまま始動しており、同系統が漏えいしたとき滞留水を挟撃するおそれがあることに気付かなかった。 こうして本船は、平成7年7月26日01時ごろ水揚げのため勝浦港に帰港し、ディーゼル発電機を運転して岸壁係留中、主機シリンダヘッドの前示の亀裂進行による破口部から漏水が2番シリンダ内に流入していたところ、同日06時からの水揚げを終えて港内でシフトすることとなり、A受審人が潤滑油ポンプ運転など機関用意のあと、始動準備しないまま始動したため同シリンダピストンが滞留水を挟撃し、同日09時ごろ勝浦港西防波堤灯台から真方位050度260メートルの地点において主機が衝撃音を発した。 当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、海上は穏やかであった。 A受審人が、直ちに主機停止のうえ各部点検の結果、主機はシリンダヘッドが持ち上がるほどのウォーターハンマーにより、2番シリンダの排気弁箱も含めシリンダヘッドが破損したほか、連接棒曲損や弁腕折損など各部が損傷しており、精査して亀裂が認められた1番シリンダヘッドとともに、これらの損傷部品を取り替えるなど修理された。
(原因) 本件機関損傷は、主機を始動する際、エアー吹かしなどの始動準備が不十分で、ピストンがシリンダ内の滞留水を挟撃したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、主機を始動する場合、冷却水系統の経年的な漏えいによる滞留水を挟撃することのないよう、エアー吹かしなどの始動準備を十分に行うべき注意義務があった。しかし同人は、冷却水系統に異常はないものと思い、始動準備を行わないまま主機を始動した職務上の過失により、シリンダヘッドなど各部を損傷するに至った。 |