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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成7年9月30日06時 北太平洋西部 2 船舶の要目 船種船名
漁船賀津丸 総トン数 19.91トン 登録長 16.23メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 478キロワット 回転数 毎分1,350 3 事実の経過 賀津丸は、昭和56年9月に進水した、まぐろはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、平成5年7月に主機が三菱重工業株式会社製造のS6R2F-MTK-2型と称する、過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関と換装され、これにマリンギヤと称する新潟コンバータ株式会社製の減速逆転機が直結され、セルモーターで始動のあと操舵室の遠隔操縦装置により運転されていた。 主機の燃料噴射ポンプは、各シリンダのものを集合した一体型ポンプが左舷側に取り付けられ、船尾側タイミングギヤケースのクランクギヤで同ポンプ駆動ギヤと、同ポンプ駆動軸の弾性継手になったカップリングを介し、駆動されており、タイミングギヤケース側の小判形継手とポンプ側のフライホイール継手間のカップリングには、十字形継手とその前後両側に、炭素工具鋼(SK5)製で厚さ0.5ミリメートルのラミネートプレートと称する円形薄板ばね10枚が重ねて取り付けられ、クロームモリブデン鋼(SCM423)製のボルト2本で各継手と両ラミネートプレートが上下・左右と軸方向の順に、小判形継手は通しボルトをナット締めしてそれぞれ接続されていた。 また、タイミングギヤケースには、ターニングギヤと称する小歯車をクランク軸のリングギヤに嵌(かん)脱させる手動のターニング装置が設けられ、運転中に同歯車が嵌合するのをフランジ形のストッパーで防止するようになっていた。 本船は、銚子沖から四国沖の太平洋沿岸漁場における、1箇月間の出漁日数が25日ほどの操業に周年従事し、就航当初から乗り組んでいたA受審人1人が機関部の担当で、主機を航海中毎分約1,300回転の全速力に、操業中約3.5時間かかる投縄及び約11時間かかる揚縄のとき、それぞれ同1,100ないし1,200回転及び同800回転で運転し、年間の主機運転時間が6,000時間以上のところ、毎年7月に1ないし2週間かけて船体及び機関の整備を行い、主機については燃料噴射ノズル取替えや吸排気弁整備などを行っていた。 ところで駆動軸カップリングの接続ボルトは、その緩みを早期に防止できるよう主機取扱説明書に1,000時間ごとの点検が明記されていたが、A受審人は同ボルトの緩みなどで主機に燃焼不良を生じたことがないので大丈夫と思い、同ボルトの緩みを点検しないまま運転を続け、いつしか小判形継手を接続する通しボルトの片方でナットが緩み、運転中に燃料噴射ポンプの噴射タイミングがずれるおそれのあることに気付かなかった。 こうして本船は、同7年9月20日和歌山県勝浦港を発し、同27日早朝より北太平洋西部の漁場に至って操業していたところ、前示通しボルトの緩みが進行し、同30日05時から主機を毎分約1,200回転に運転して第4回目の投縄中、駆動軸カップリングのラミネートプレートに亀(き)裂を生じ、弾性継手が破損状態となったため燃料噴射ポンプがタイミング不良となり、同日06時北緯36度10分東経153度30分の地点において、主機が異常な運転音を発するとともに煙突から白煙を噴出するようになった。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、海上は穏やかであった。 甲板作業中のA受審人は、主機の運転異常を認めて、点検のうえ、ナットが脱落していた駆動軸カップリングの通しボルトを締め直し毎分約600回転で運転を続けたが、依然として運転不調のため主機を停止して同ポンプタイミングの点検と運転を繰り返すうち、ターニングギヤのストッパーを入れ忘れたまま始動したので同ギヤが嵌合され、同日20時ごろブッシュが焼き付いて遂に主機が運転不能となった。 その後本船は救助を求めて巡視船などにより曳(えい)航され、10月6日宮城県塩釜港に入港して同ポンプ駆動軸カップリングのラミネートプレートやターニングギヤのブッシュを取り替えるなど修理された。
(原因) 本件機関損傷は、主機を取り扱う際、燃料噴射ポンプ駆動軸の接続ボルトの点検が不十分で、運転中に緩みを生じて弾性継手が破損し、同ポンプが噴射タイミング不良となったことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、主機を取り扱う場合、燃料噴射ポンプ駆動軸の接続ボルトが運転中に緩むと、同ポンプの噴射タイミングがずれて燃焼不良となるおそれがあったから、緩みを早期に防止できるよう同ボルトを適宜に点検すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、同ボルトの緩みなどで主機に燃焼不良を生じたことがないので大丈夫と思い、同ボルトを点検しなかった職務上の過失により、駆動軸の弾性継手を破損するなど運転不能の状態を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |