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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年7月30日16時40分 日本海西部 2 船舶の要目 船種船名
漁船第18海漁丸 総トン数 19トン 全長 23.45メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 定格出力
481キロワット 回転数 毎分1,450 3 事実の経過 第18海漁丸(以下「海漁丸」という。)は、昭和62年12月に進水した、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、主機としてヤンマーディーゼル株式会社が製造したS160-GNと称するディーゼル機関と油圧クラッチ付減速逆転機を装備し、主機の船首側にゴム継手を介して駆動する220ボルト250キロボルトアンペアの三相交流発電機を設置していた。 機関室は、中央に主機と発電機を置き、主機の両舷に設けられた棚に放電管式集魚灯の安定器を収め、後部両舷側に張り出した船体付燃料タンクの上に鉛蓄電池と停泊用発電機を、さらに右舷側の囲壁上部に燃料常備タンクをそれぞれ配置し、後部囲壁に機関室入口の引き戸を設けていた。また、同室の換気のために電動機駆動の軸流通風機が化粧煙突前部に3台、右舷側の上甲板付近に換気扇1個がそれぞれ取り付けられていた。 主機の過給機は、主機右舷側の排気集合管の上方に置かれ、タービンロータ軸中央部を軸受ハウジングに収めたスリーブ形軸受と推力軸受で支える構造で、同ハウジングの上部に主機からの潤滑油供給管が、また下部に主機のクランク室への潤滑油戻管が取り付けられていた。 過給機の潤滑油供給管は、主機の右舷側にある潤滑油冷却機の出口から過給機専用のこし器を経て、圧力3ないし3.5キログラム毎平方センチメートルの潤滑油を過給機軸受に送るもので、外径12ミリメートル(以下「ミリ」という。)、厚さ1.6ミリの圧力配管用炭素鋼管がこし器を出て船尾側の振動止め金具で支えられ、更に船尾側に沿ったのち上方に立ち上がり、2箇所の90度曲りを経て小判型フランジに溶接され、同フランジが軸受ハウジング上部に2本の六角ボルトで取り付けられていたので、同フランジ付近で主機から伝わる振動の影響を受けやすくなっていた。 ところで、主機の排気管は、断熱材を巻かれた呼び径200ミリの鋼管で、過給機の船首側にあるタービン出口のたわみ継手からやや船尾寄りに傾斜して立ち上がり、FRP製の機関室天井の開口部にボルトで取り付けられた厚さ4ミリの鋼製の化粧煙突底板を貫通し、化粧煙突内の消音器に接続されていたが、機関運転中は同底板が排気ガスで高温になっていた。 海漁丸は、機関及びプロペラによる微振動のため、それまでに燃料供給配管などに振動に起因すると考えられる亀(き)裂が3回生じたことがあり、その都度溶接修理やゴム製配管への変更が行われていたが、いつしか過給機潤滑油供給管のフランジの上部付近に微細な亀裂を生じていた。 A受審人は、海漁丸の就航当時から機関長として乗船し、機関の整備と運転管理をほとんど1人で行っており、過給機の潤滑油こし器やブロワ吸込フィルタを定期的に取り替える際に過給機の周辺を点検しておらず、また、主機を船橋操作で始動後、機関室入口から一瞥(べつ)するだけで機関室に降りて行かなかったので、過給機の潤滑油供給管を点検することなく、同管の亀裂に気付かないまま運転を繰り返していた。 こうして海漁丸は、平成9年7月30日13時40分A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で山口県特牛港を発し、主機を回転数毎分1,250として山口県北西方沖合の漁場に向かっていたところ、過給機軸受ハウジング上部の潤滑油供給管に生じていた微細な亀裂が長さ7ミリほどまで進展し、潤滑油が噴出して機関室左舷側の側壁と天井方向に飛散し、その一部が排気管の貫通する化粧煙突にかかり、16時40分見島北灯台から真方位257度21.2海里の地点で機関室上部で発火して火災となった。 当時、天候は晴で風力3の北東風が吹いていた。 海漁丸は、機関室通風機から白煙を放出し、船橋で当直中の船長がその臭いで異状に気付き、直ちに主機の回転数を下げて中立とし、僚船に連絡したのちA受審人とともに機関室に入り、手持式粉末消火器で消化に当たったが、効果がなく、その後海水ポンプによる消火で17時15分ごろ鎮火し、来援した僚船に曳(えい)航されて博多港に帰港し、のち焼損した電線、通風機、機関室囲壁のほか消化作業でぬれ損した安定器、分電盤、鉛蓄電池などが取り替えられた。
(原因) 本件火災は、出港前の主機の運転状態の確認にあたって、過給機潤滑油供給管の点検が不十分で、同管に生じていた亀裂が進展して潤滑油が機関室天井方向に噴出し、主機の排気ガスで高温になった化粧煙突底板にかかり、発火したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、主機を始動後、出港前に運転状態を確認する場合、主機の振動で配管に亀裂が生じていないか、機関の間近に降りて過給機潤滑油供給管を点検すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、機関室入口から全体を見れば大丈夫と思い、潤滑油供給管を点検しなかった職務上の過失により、潤滑油供給管に亀裂が生じていることに気付かず、同亀裂が進展して潤滑油が機関室天井方向に噴出し、主機の排気ガスで高温になった化粧煙突底板にかかって発火を招き、機関室囲壁、通風機、電線に焼損を、また、消火海水により安定器、分電盤、鉛蓄電池などにぬれ損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |