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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年7月16日19時30分 青森県津軽半島北西方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船第8昇好丸 総トン数 14.43トン 登録長 14.84メートル 機関の種類
過給機付4サイクル・ディーゼル機関 出力
294キロワット 回転数 毎分900 3 事実の経過 第8昇好丸(以下「昇好丸」という。)は、昭和54年2月に進水したいか一本釣り漁業などに従事する一層甲板型FRP製漁船で、上甲板下が、船首から順に、バラストタンク、3区画の魚倉、機関室、船員室及び集魚灯用安定器室(以下「安定器室」という。)となっており、上甲板上には、船首甲板、船体のほぼ中央に機関室囲い、その後方に賄室が隣接しており、船尾部に船尾甲板を有し、機関室囲いの前部上方に操舵室が設けられていた。また、自動いか釣り機は両舷に各6台、船尾に1台の計13台が装備されていた。 機関室は、中央に主機が据え付けられ、主機の動力取出軸には、エアクラッチを介してベルト駆動される100及び160キロボルトアンペアの集魚灯用発電機が装備され、両舷側にA重油貯蔵の燃料油タンクが設置されていた。 集魚灯は、放電式のメタルハライドランプで、2キロワットのものを100個備え、同灯へは、各集魚灯用発電機から気中遮断器、機関室内に設けられた7系統の集魚灯用3極スイッチ及び安定器を順に経て給電されるようになっていた。 安定器室は、前後の長さが約1.8メートル、横幅が船幅一杯の約3.8メートル、高さが約0.8メートルあり、本船の建造当初は、燃料油タンクとして使用されていたが、昭和61年にそれまで集魚灯として使用していた白熱灯を放電灯に切り替えたことに伴い、同室に安定器を据え付け、その際、同室への唯一の出入口として、同室の天井にあたる船尾甲板に80センチメートル(以下「センチ」という。)四方で、高さ30センチのコーミングを持つハッチ口を設け、蓋(ふた)をかぶせるようにしていた。なお、同室には、照明設備が設けられていなかった。 安定器は、コンデンサ、変圧器などを内蔵した縦約50センチ、横約30センチ、高さ約25センチの箱形のもので、安定器室内では、四方の壁に沿って設けられた二段の鉄枠の格納棚に2キロワット1灯用安定器30個、2キロワット2灯用安定器14個、更に、中央前寄りの床上には同じく二段の格納棚に2キロワット2灯用安定器4個が、それぞれ配置されていた。そして、このほかの安定器は、機関室囲い横の両舷甲板上の箱の中に格納されていた。 ところで、安定器室は、狭いうえに密閉された区画であったことから、通気のため船尾甲板の両舷に設けられた自然通気用の通風筒のほかに、床のほぼ中央に電動式の吸気通風用送風機(以下「吸気通風機」という。)及び排気通風用送風機(以下「排気通風機」という。)を設置し、各通風機には蛇腹式のビニール製通風ダクトが取り付けられ、各ダクトが船尾甲板後部の左右の通風筒にそれぞれ接続されていた。そして、吸気通風機の運転は、集魚灯用発電機の運転と連動し、また、排気通風機の発停は、操舵室のいか釣り機操作盤内に設けられた押しボタンスイッチで行うようになっていたが、安定器からの放熱で室内の温度が上昇しないように、同通風機を集魚灯の点灯中及び消灯後しばらくの間運転しておく必要があった。 A受審人は、昭和54年2月昇好丸に乗り組み、集魚灯の運転管理に当たっては、不具合となった集魚灯をその都度新替えし、また、平成7年7月には地元の電気店に依頼して安定器の絶縁抵抗を測定し、容量低下が生じていたコンデンサを取り替えるなどしてその後の操業に従事していたが、集魚灯を点灯するとき、安定器室の排気通風機の運転を確実に行うことなく、その運転をしばし忘れ、また、同通風機を運転しても集魚灯を消したあとしばらく運転することなく、直ぐに同通風機を止めていた。このため、摂氏40度(以下「摂氏」を省略する。)以下を標準とする安定器周辺温度は上昇し、同8年6月に入ると外気温度の上昇に伴って40度を超えることが多くなり、同室の安定器の一部は、絶縁材料が高温のため著しく劣化するようになった。 こうして、昇好丸は、いか一本釣り漁業の目的で、A受審人が1人で乗り組み、翌7月16日15時30分青森県北津軽郡小泊村小泊漁港を発して津軽半島北西方の漁場に向かい、17時40分同漁場に至って昼いか漁を開始し、19時10分集魚灯を点灯したが排気通風機の運転を忘れたまま操業を行っていたところ、かねてより絶縁抵抗が著しく低下していた安定器の電路が短絡し、絶縁物が過熱発火して燃え上がるとともに周辺の安定器などに燃え移り、19時30分小泊岬南灯台から真方位297度18.4海里の地点において、船首甲板で右舷側のいか釣り機を調整していたA受審人が、船尾方から白い煙が漂ってくるのを認め、火災を知った。 当時、天候は晴で、風力2の南風が吹き、海上は穏やかであった。 A受審人は、船尾甲板に赴いたところ、安定器室のハッチなどから煙が出ているのでとっさに安定器からの出火と判断し、機関室に急行して集魚灯用3極スイッチを切り、甲板上に戻ったものの煙で船尾甲板に近づけず、操舵室内の無線機により僚船に救助を求めた。そのころ、ハッチ付近が炎と煙に包まれ、同人は、僚船から救助に向かう旨の応答を得たのち操舵室から出たが、火勢が強く消火器を用いるなどの消火作業ができないでいるうちに、身の危険を感じて船首部に退避していたところ、19時55分来援した僚船に救助された。 その後、昇好丸は、機関室、操舵室へと延焼し、翌17日00時ごろ火災発生地点から北へ3.5海里ばかりの地点で沈没した。
(原因) 本件火災は、集魚灯用安定器の運転管理に当たり、安定器室の通風確保が不十分で、操業中、絶縁材料が劣化していた安定器の電路が短絡し、絶縁被覆が過熱発火したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、集魚灯用安定器の運転管理に当たる場合、安定器室が狭いうえに密閉された区画であったから、同室内の温度が上昇して安定器内の絶縁材料が劣化することのないよう、集魚灯点灯中及び消灯後しばらく排気通風機を運転して安定器室の通風を十分に確保すべき注意義務があった。しかるに、同人は、安定器室の排気通風機の運転をしばしば忘れ、また、集魚灯消灯後直ぐに同通風機を止め、安定器室の通風を十分に確保しなかった職務上の過失により、同室内の温度が上昇して安定器内の絶縁材料の劣化を招き、電路が短絡して過熱発火し、火災を発生させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |