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1998年(平成10年)

平成9年神審第40号
    件名
漁船第三十一成幸丸火災事件

    事件区分
火災事件
    言渡年月日
平成10年8月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

山本哲也、須貝壽榮、西林眞
    理事官
岸良彬

    受審人
A 職名:第三十一成幸丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定・旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
機関室上段の清浄機駆動電動機、同始動器、造水装置、主配電盤、電気配線及び機関室天井の一部を焼損

    原因
火災防止措置不十分(燃料油の取扱)

    主文
本件火災は、燃料油清浄機の運転に際し、火災防止措置が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年12月8日17時20分
石川県猿山岬沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十一成幸丸
総トン数 138トン
全長 36.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 588キロワット
3 事実の経過
第三十一成幸丸は、いか一本釣り漁業に従事する昭和50年11月に進水した中央船橋型鋼製漁船で、上甲板下が、船首から順に、船首倉庫、魚倉、機関室、乗組員居室、清水タンク及び6番燃料油タンクとなっており、上甲板上には、船首から順に、船首楼、作業甲板、冷凍室、作業室、機関室囲壁、調理室兼食堂及び操舵機室が設けられ、冷凍室の上方に操舵室及び船長室が位置し、船首から機関室にかけての船底には1番ないし5番燃料油タンクが配置されていた。
機関室には、下段中央に主機として松井鉄工株式会社が製造した6M26KGHS型ディーゼル機関、主機の両舷に205キロワットの発電機用補助機関(以下「補機」という。)、補機の前方にポンプ類などが据え付けられ、上段の前部両舷に冷凍機、右舷側に燃料油タンク、燃料油清浄機(以下「清浄機」という。)、工作台及び造水装置、後方には配電盤などが備えられていたほか、後部乗組員居住区に通じる同室入口があり、機関室上部には天窓及び3台の電動通風機が設けられていた。
清浄機は、本船の建造後に機関室燃料油タンク(以下、燃料油系統の機器及びタンク等の名称は「燃料油」を省略する。)の改造とともに設置されたもので、それまでサービスタンクとして使用されていた同タンクは内部を斜めに仕切って容量約740リットル及び約200リットルのセットリング及びサービス一体タンクとなっていて、1番から6番タンクのA重油が、集合分配弁を経て移送ポンプによりセットリングタンクに自動移送され、清浄機で清浄されたのちサービスタンクに入って、主機及び補機に供給されており、サービスタンクの余剰油はオーバーフロー接続管を通ってセットリングタンクに戻るようになっていたが、清浄機燃料油入口にこし器は設けられていなかった。
また、清浄機は、三菱化工機株式会社が昭和54年に製造した、処理容量がA重油で毎時約510リットルのSJ-700S型遠心分離機で、水分や固形微粒子などの不純物を含んだA重油が上下に二分割開閉式の高速回転体内に連続通油され、遠心力の作用で清浄油と汚損液とに分離される一方、回転体内に溜(た)まったスラッジは手動操作で回転体を開けて汚損液側に分離排出できるようになっていた。
一方、同機の回転体を密閉している弁パッキンが損傷したり異物を噛(か)み込むなどすると、汚損液側に原液が異常流出することがあるので、メーカーでは高液面警報付きスラッジタンクを設けるか、スラッジ排出口の直下に20リットル程度の大型缶を設置するかを推奨していた。しかし、本船ではスラッジ排出口に内径100ミリメートル(以下「ミリ」という。)、厚さ5ミリの塩化ビニール製ホース(以下「ホース」という。)を挿入し、ホースバンドで締め付けて機関室右舷ビルジ溜めに落とすようにしており、異常流出に対する漏洩(ろうえい)検知器は設けられていなかった。
ところで、清浄機は、セットリング及びサービス一体タンクの右舷側に接近して設置されており、同機の船尾側間近には断熱材として石綿布を巻いただけで鉄板等の囲いのない1号補機排気管(以下「排気管」という。)が上段天井方向に立ち上がっており、同機スラッジ排出口中心と排気管断熱材表面との間隔はわずか約280ミリであった。また、排気管左舷側には、漁具予備品類の入った段ボール箱が同管に密着するように固縛(こばく)して置かれていた。
A受審人は、平成8年4月に船長が本船を購入した際、機関長として乗り組み、1人で機関の運搬管理に当たり、清浄機についてはその間近に排気管が立ち上がっていることから、乗船当初から危険な場所にあるなと思っていたが、特に対策を講じないまま、操業中は同機を連続運転とし、午前1回もしくは午前午後各1回スラッジの排出を行っていた。
本船は、石川県小木港を墓地として6月から10月にかけて島根県沖から北海道まで北上し、11月末には再び石川県沖に南下して1航海が20日程度の操業を繰り返していたもので、A受審人ほか6人が操り組み、同年11月28日09時小木港を発し、能登半島北西沖合の漁場に向かった。
A受審人は、同年12月1日ごろ清浄機のスラッジ排出口に挿入されていたホースが外れていることに気付いて復旧しようとしたが、同ホースが硬化していて挿入できなかった。そのため、1回分のスラッジ排出量に合わせて容量約2.8リットルの受缶をスラッジ排出口に吊(つ)り下げてひもで固縛し、スラッジ排出操作で同缶に溜まったものは20×リットル石油缶に移すこととし、さらに受缶が溢(あふ)れた際に備えて容量約10.8リットルの魚凍結用鉄製受皿を受缶の下の清浄機と排気管の間に置き、同機の運転を継続した。
その後、A受審人は、同月5日14時ごろ機関室見回り中、清浄機が異常流出してスラッジ排出口から漏れたA重油が受缶から溢れ、排気管に降りかかり白煙が出ているのに気付いたが、スラッジ排出操作を行うと正常に戻ったので同機の運転を続けていた。ところが、同月8日15時30分ごろ自室で休息中、異臭に気付いて機関室に入り、弁パッキンに微小な傷が発生したものか、再び異常流出してA重油がスラッジ側に漏出し、排気管やその周辺に飛び散って排気管から煙が上がり、さらに下の受皿も一杯になって溢れているのを認めた。
しかしながら、A受審人は、スラッジ排出を行っておけばしばらくは異常流出が起こることはあるまいと思い、ホースを暖めるなどしてスラッジ排出口から外れいよう修復し、かつ、排気管を鉄板などで覆い、A重油が付着した段ボール箱を排出気管から遠ざけるなどの火災防止措置を講じることなく、通油を停止して床に飛散したA重油を拭(ふ)き取っただけで給油を再開し、16時30分ごろ集魚灯を点灯するため発電機を並列運転としたのち、甲板に上がっていかの梱包(こんぽう)冷凍作業に加わった。
こうして本船は、機関室を無人としたまま操業準備中、再び清浄機からA重油が異常流出してスラッジ受缶から受皿に溢れ、飛散した同油が集魚灯の点灯で高負荷運転中の補機排気管に降りかかって発火し、17時20分猿山岬灯台から真方位344度58海里の地点で、段ボール箱に引火して機関室が火災となった。
当時、天候は曇で風力3の南西風が吹き、海上はやや波が高かった。
A受審人は、火災に気付いた船長からの連絡で急いで機関室に入り、上段右舷側の排気管のところで段ボール箱が燃えているのを確認したものの煙が激しくなったため、冷凍機を1台停止しただけで機関室を逃れ、他の乗組員とともに機関室を密閉して火勢の衰えを待ち、18時30分過ぎ鎮火を確認した。
第三十一成幸丸は、僚船及び巡視船に救援を依頼し、翌9日04時ごろ来援した巡視船に曳航(えいこう)され、同日午後小木港に引きつけられた。
火災の結果、機関室上段の清浄機駆動電動機、同始動器、造水装置、主配電盤、電気配線及び機関室天井の一部を焼損したが、のちすべて修理されるとともに、清浄機A重油入口にこし器を新設し、スラッジ排出ホースが排出口から外れないよう取付け方法が改善された。

(原因)
本件火災は、燃料油清浄機の運転に際し、火災防止措置が不十分で、異常流出したA重油が周囲の補機排気管や段ボール箱に降りかかり、発火したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、高温となる補機排気管近くに設置された燃料油清浄機の運転に際し、スラッジ排出口に挿入されていたホースが外れていることを認めた場合、A重油が異常流出して火災が発生するおそれがあったから、異常流出に備えホースが外れないよう修復し、かつ、排気管を鉄板などで覆い、可燃物を排気管から遠ざけるなどの火災防止措置を講ずべき注意義務があった。ところが、同人は、スラッジ排出操作を行っておけばしばらくは異常流出が起こることはあるまいと思い、ホースが外れないよう修復するなどの火災防止措置を講じなかった職務上の過失により、異常流出したA重油が排気管に降りかかって出火させ、機関室上段付近を焼損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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