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1998年(平成10年)

平成9年神審第35号
    件名
貨物船第五十七新正丸火災事件

    事件区分
火災事件
    言渡年月日
平成10年7月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

山本哲也、須貝壽榮、西林眞
    理事官
岸良彬

    受審人
A 職名:第五十七新正丸前機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定・旧就業範囲)
B 職名:第五十七新正丸機関長 海技免状:三級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
発電機配電盤、同配電盤裏の各循環ポンプ始動器、機関室囲壁前壁天井部の電気配線、船員室等がそれぞれ焼損、操舵室の航海計器等が熱損や濡れ損

    原因
配電盤の整備不十分

    主文
本件火災は、配電盤の整備が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aの五級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年11月3日08時50分
香川県小田湾
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第五十七新正丸
総トン数 273トン
全長 53.27メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
3 事実の経過
第五十七新正丸は、主要搭載機器のほとんどを中古品として平成2年11月に竣工した船尾船橋機関室型の鋼製貨物船で、船首側から順に、甲板下が船首タンク、ポンプ室、1番から6番までの魚槽及び機関室に、甲板上は、船首楼内が船首倉庫及び発電機室に、船尾楼内が機関室囲壁、食堂及び舵機室にそれぞれ区画されて、機関室囲壁の上に船員室、その上方に操舵室が設けられていた。そして、機関室ほぼ中央に主機が、同室後部に40キロボルトアンペア(以下「KVA」という。)と60KVAの一般電源用発電機が据え付けられていた。
本船は、瀬戸内海及び九州地方の各養殖施設から、基地とする大阪府深日(ふけ)港への活魚輸送に従事していたもので、活魚運搬中は魚槽の海水を常に新鮮に保つ必要があり、各魚槽の底部及び両舷側に海水取入口及び排出口を設け、航走中は海水弁の操作により、自然対流を利用して海水の入替えができるようになっていたが、停泊中に同海水を入れ替えるため、機関室に容量45キロワット(以下「KW」という。)の電動機によって駆動される海水ポンプ(以下「循環ポンプ」という。)1台と22KW電動機駆動のもの2台を、ポンプ室には、これに11KWのもの2台を加えた合計5台の循環ポンプを、それぞれ備えていた。
このため、本船は、一般電源用発電機のほかに、これら大容量の循環ポンプ電源専用に、作業用発電機と称し、いずれもディーゼル原動機によって駆動される225ボルト3相交流の、120KVAの発電機2台を機関室前部の両舷に、160KVAの発電機1台を船首楼発電機室内にそれぞれ装備していた。そして、機関室囲壁の前壁に沿って、左舷側に一般源用発電機2台の主配電盤が、右舷側に120KVA発電機2台の配電盤が、ほぼ船幅いっぱいに並べて設置してあり、160KVA発電機の配電盤は発電機室左舷側に設けてあった。
このうち、120KVA発電機2台の配電盤は、昭和50年に製作され舶用の主配電盤として使用されていた、高さ及び幅が約2メートル奥行き約50センチメートルのデッドフロント型のもので、右舷側から、発電機盤、給電盤及び手動電圧調整器盤に分割され、いずれも前面が横開きできるパネル扉になっていて、発電機盤の同扉には、上部に両発電機の電圧計、電流計、電力計、同期検定灯等が取り付けてあり、中央に左右に並べて設けられた開口部は、内部に設置した両発電機の気中遮断(しゃだん)器(以下「ACB」という。)ハンドル位置に合わせてあってパネル扉を閉じたままACBの操作ができるようになっていた。
A受審人は、本船所有会社社長の長男で、五級海技士(航海)の免状を併有し、本船竣工時から機関長として乗り組んで機関及び電気機器の運転管理に当たり、また、同社常務取締役として運航全般を管理し、積地で活魚の買付け交渉等も行っていた。
ところで、A受審人は、運転中の循環ポンプを停止する際、各ポンプをそれぞれの始動器で順に停止する通常の手順によらず、配電盤のACBをトリップさせて同ポンプを一斉に停止させていたので、120KVA発電機盤の左側ACBの主接触子面が、長年の使用で肌荒れ気味となっていたところ、トリップ時の過大引外し電流の影響も加わり、肌荒れが進行して電流抵抗値が増大し、ACB発電機側母線の入力端子が、投入時の振動や運転中の過熱により締付けに緩みが生じるとともに、ベークライト製台座の劣化が進行し始めた。
しかしながら、A受審人は、各発電機配電盤について、すべて昭和50年代前半に製造された来歴不明のもので、計器類も故障しているものが多かったが、運転に支障がなかったことから大丈夫と思い、2年毎に絶縁抵抗を測定していただけで、平成6年11月の第1回定期検査工事の機会を含め、早期に内部の各配線端子を締め付け、ACB主接触子面等を点検するなど、配電盤を整備することなく運航に従事していたので、120KVA発電機盤内部の前示状態に気付かなかった。
さらに、A受審人は、同7年1月ごろ同左側ACBが投入できなくなって出入りの電気業者に点検させた際、ACB自己保持回路のラッチ機構に関連するものか、主接触子付近の小さなピンを下方に引き出せば、応急的に投入できることを教わり、同ピンの目的を確かめることも修理させることもしないまま、以降同ACB投入のたびに、発電機盤のパネル扉を開いたうえ同ピンを引き下げて運転を繰り返していた。
B受審人は、当初短期間の予定で同年4月に本船機関長として雇用され、間もなく主要機器と同様に各配電盤がそれぞれ寄せ集められた古い製品であり、120KVA発電機配電盤については、計器類の多くが故障していて、左側ACBが通常の操作では投入できないことを認め、そのまま運転を行うことに操作面での不安と電気火災のおそれとを覚え、引き続き次席一等航海士として乗船していたA受審人にその旨を伝えた。しかし、A受審人からそれまでどおりの取扱いで運転するように指示を受けた同人は、船主代理人の言うことなので仕方がないと思い、同配電盤の整備を強く要求することなく運航に従事していた。
本船は、A及びB両受審人ほか3人が乗り組み、ひらまさの活魚7トンを積み、同年11月2日11時25分大分県佐伯湾を発し、はまちの活魚18トンを積み取る目的で、翌3日04時30分香川県小田湾に到着して60KVAの発電機を運転したままいったん仮泊した。そして、07時20分主機を始動し、120KVA発電機2台を並列運転したうえシフトに取り掛かり、続いて160KVA発電機を始動して順次循環ポンプを運転し、08時20分養殖施設に接舷して主機を停止した。
こうして本船は、60KVAの発電機及び作業用発電機3台を運転し、08時30分乗組員全員が甲板上に出て荷役を開始したところ、無人となった機関室で、120KVA発電機盤左側ACBの発電機側入力母線が、炭化したベークライト製台座を介し線間短絡し、大電流が流れて電線被覆や台座が燃え上がり、はまちの活魚約10トンを積み込んだころ、08時50分馬ケ鼻灯台から真方位277度140メートルの地点で、周囲の塗料などに着火して機関室が火災となった。
当時、天候は曇で風力2の南西風が吹き、湾内は穏やかであった。
A受審人は、後部魚槽付近で作業中、船長から魚槽への海水注入量が異状である旨の報告を受け、機関室に入ったところ室内に黒煙が立ちこめており、煙の発生源が不明のまま運転中の発電機3台を停止し、異状に気付いて駆け付けたB受審人が、120KVA発電機盤内部から上がる炎を認め、2人で携帯用消火器を使用するなどして消火に努めたが、ますます黒煙が充満して同室に留まることができなくなったので、乗組員全員で密閉消火に努めるうち、養殖施設職員の連絡で到着した地元消防署の応援を得て10時50分ごろ鎮火させた。
火災の結果、本船は、120KVA発電機配電盤、同配電盤裏の各循環ポンプ始動器、機関室囲壁前壁天井部の電気配線、配線を伝って延焼した船員室等がそれぞれ焼損したほか、操舵室の航海計器等が熱損や濡れ損し、積載していた活魚を養殖施設に移したうえ、僚船に曳航(えいこう)されて深日港に帰港し、のち同港岸壁において出入りの鉄工所及び電気業者の手により、配電盤、ジャイロコンパス等を中古品と取り替えるなど、損傷箇所すべてが修理された。

(原因)
本件火災は、舶用の主配電盤として使用されたのち、活魚槽循環ポンプ専用の発電磯に使用されていた配電盤の整備が不十分で、同ポンプを運転して活魚積込み中、過熱と振動で締付けに緩みを生じていたACB発電機側母線の入力端子が、台座を介して線間短絡したことによって発生したものである。
配電盤の整備が不十分であったのは、船舶所有者の代理人でもある前機関長が配電盤の整備を行っていなかったことと、機関長が引き続いて乗船していた前機関長に対し、同整備を行うよう強く要求しなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
A受審人は、電気機器の運転管理に当たる場合、来歴不明の配電盤内部で、電路が過熱したまま運転を続けて火災を発生させることのないよう、接続端子を締め付け、ACB主接触子面を点検するなど、早期に配電盤を整備すべき注意義務があった。ところが、同人は、運転に支障がないので大丈夫と思い、早期に配電盤を整備しなかった職務上の過失により、配電盤から出火させて、機関室及び船員室等を焼損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。
B受審人は、機関長として乗船後間もなく、配電盤の計器類の多くが故障し、ACBが通常の捜査では投入できないことを認めて運転操作に不安を覚えた場合、船舶所有者の代理人として乗船していたA受審人に対し、配電盤を整備するよう強く要求すべき注意義務があった。ところが、同人は、A受審人からそれまでどおりの取扱いで運転するように指示を受けて仕方がないと思い、配電盤を整備するよう強く要求しなかった職務上の過失により、配電盤から出火させて、機関室及び船員室等を焼損させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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