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1998年(平成10年)

平成8年仙審第84号
    件名
漁船第七喜代丸火災事件

    事件区分
火災事件
    言渡年月日
平成10年3月17日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

大山繁樹、葉山忠雄、半間俊士
    理事官
里憲

    受審人
A 職名:第七喜代丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第七喜代丸甲板員 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
操舵室、機関室などを消失していて、廃船処分

    原因
電線の外観及び絶縁抵抗の各検査不十分

    二審請求者
理事官里憲

    主文
本件火災は、電線の外観及び絶縁抵抗の各検査が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年3月20日18時40分
岩手県山田湾
2 船舶の要目
船種船名 漁船第七喜代丸
総トン数 19.41トン
全長 14.29メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 183キロワット
回転数 毎分1,300
3 事実の経過
第七喜代丸(以下「喜代丸」という。)は、昭和50年12月に進水し、突俸漁業などに従事するFRP製漁船で、甲板上にはほぼ中央から船尾方にかけて順に機関室囲壁、上部船員室が、同囲壁上部の船首側に操舵室がそれぞれ設けられ、また、甲板下に停船首側から順に第1ないし第3の各魚倉、機関室、下部船員室が設けられており、機関室へは、操舵室床の上げ蓋と上部船員室前壁の左舷寄りの扉とから出入りするようになっていた。
機関室は、中央に主機を装備し、主機前端から機関室前壁との間には、床から60センチメートル(以下「センチ」という。)の高さのところに機関室幅一杯の鉄枠の据付け台(以下「据寸け台」という。)が設けられ、そこには木製の敷板が敷かれ、また、機関室の壁には合板製の化粧板が張られていた。
主機の動力取出軸には、主機側から順に第1プーリ、エアクラッチ、第2プーリが取り付けられ、第1プーリにより2キロワットの充電用直流発電機及び船内電源用20キロボルトアンペアの交流発電機(以下「20キロ発電機」という。)がそれぞれベルト駆動され、第2プーリにより集魚灯用100キロボルトアンペアの交流発電機(以下「100キロ発電機」という。)がベルト駆動されるようになっており、20キロ発電機が据付け台中央の鉄枠に、それ以外の発電機が機関室床の高さのところにそれぞれ設置されていた。
20キロ発電機の配線系統は、同発電機の端子箱から出た電線が、据付け台の左舷壁沿いに取り付けられた配電盤に導かれているほか、端子箱には三心のキャブタイヤコードが取り付けられ、同キャブタイヤコードが据付け台を船首方へ導かれ、続いて、機関室前壁を70センチ立ち上がり、右方にほぼ直角に曲がって右舷壁に至り、さらに右舷壁を船尾方へ約1メートル配線されて三極スイッチに接続されていたが、この配線は、前船舶所有者が取り付けたもので、同スイッチより先の電線は撤去されていた。なお、同キャブタイヤコードは、据付け台及び壁に帯金で固定されていた。
A受審人は、平成元年12月に喜代丸を購入して以来、船長として乗り組み、機関及び機関室内の電気設備の運転・保守整備については、実弟のB受審人の方が各機器の知識及び取扱いに慣れていることから全面的に任せていた。
B受審人は、乗船以来電気関係に支障なかったことから不具合はあるまいと思い、業者に依頼するなどして定期的に外観及び電線の絶縁抵抗の各検査を行わなかったので、20キロ発電機から三極スイッチに至るキャブタイヤコードの絶縁が低下していることに気付かないまま、操業を繰り返していた。
こうして、喜代丸は、A及びBの両受審人力乗り組み、いるか突棒漁業を行う目的で、平成8年3月20日03時30分ごろ岩手県織笠漁港を発し、05時ごろ同県大釜埼東方沖合の漁場に至って操業を開始し、いるか12頭を捕獲し、17時30分ごろ操業を終えて同漁場を発し、織笠漁港に向け主機を回転数毎分1,300にかけて帰途についたところ、その後1時間ばかりして機関室前壁に配線している前示キャブタイヤコードが絶縁低下の進行により短絡して電線被覆に着火した。
B受審人は上部船員室流し台で食器を洗い終え、燃料油サービスタンクの油量を点検しようとして機関室入口扉を開けたところ、18時40分山田笠ヶ鼻灯台から真方位67度1.4海里の地点において、前示キャブタイヤコードが燃え上がり、下方の100キロ発電機のプーリ上に被覆が滴下して炎と煙を生じているのを認めた。
当時、天候は晴で、風力2の西南西風が吹き、海上は穏やかであった。
B受審人は機関室入口扉を閉め、船尾甲板に出て操舵室のA受審人に火災発生を報告した後、上部船員室に備付けの粉末消化器を持って機関室入口扉を開けたところ、室内に黒煙が充満していて火元が見えず、消火器を噴出できないまま操舵室へ戻り、A受審人は、船舶電話で自宅に火災発生を通報して救助を要請した。間もなく、操舵室床の上げ蓋の隙間から黒煙が噴き出してきたので、両受審人は、船首甲板へ退避し、19時ごろ来援した織笠漁業協同組合の監視船によって救助された。
その後、火災は拡大し、操舵室及び上部船員室に延焼したが、来援した同漁業協同組合の僚船により注水消化行われ、鎮火したのち曳航されて織笠漁港に入港した。
火災の結果、喜代丸は、操舵室、機関室などを消失していて、廃船処分された。

(原因)
本件火災は、機関室内電線の外観及び絶縁抵抗の各検査が不十分で、絶縁の低下していた主機駆動発電機から同室右舷壁の三極スイッチに至る電線が短絡して電線被覆に着火し、付近の可燃物に燃え移ったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
B受審人が、電気設備の運転・保守整備にあたる場合、機関室内電線の絶縁が低下していることを見逃さないよう、業者に依頼するなどして定期的に同電線の外観及び絶縁抵抗の各検査を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、乗船以来電気関係に支障なかったことから、不具合はあるまいと思い、電線の外観及び絶縁抵抗の各検査を十分に行わなかった職務上の過失により、機関室内電線の短絡による火災を招き、操舵室、機関室などを焼失させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。






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