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1998年(平成10年)

平成9年仙審第28号
    件名
漁船第二十五漁盛丸火災事件

    事件区分
火災事件
    言渡年月日
平成10年3月5日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

葉山忠雄、半間俊士、大山繁樹
    理事官
里憲

    受審人
A 職名:第二十五漁盛丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
予備漁網及び付近配線が焼失、発電機電圧調整器、配電盤、キャッチライト用安定器、原動機用警報盤等に損傷

    原因
配線の敷設方法不適切

    主文
本件火災は、配線の敷設方法が不適切で、予備漁網の下敷きになったキャブタイヤコードの切り継ぎ箇所が発熱し、短絡を生じたことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年11月11日00時30分
北海道襟裳岬南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十五漁盛丸
総トン数 126トン
登録長 28.98メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 529キロワット
3 事実の経過
第二十五漁盛丸(以下「漁盛丸」という。)は、船首楼及び船尾楼付き1層甲板型の船体のほぼ中央部に船橋を有する、かじき等流し網漁業、さけ・ます流し網漁業及びさんま棒受け網漁業に従事する鋼製漁船で、甲板下に、船首方から船首燃料油タンク、第1番ないし第5番の各魚倉、機関室、船員室及び船尾燃料油タンクが配置され、船首楼部には、甲板長倉庫が、また、船尾楼甲板下に、船首方から準備室、凍結室、機関室中段部、賄室・食堂及び船尾倉庫が配置されていた。
船尾倉庫は、長さ約6.2メートル幅約5.1メートルで、そのほぼ中央部に船尾楼甲板への階段があり、さんま棒受け網漁の操業期間中には、225ボルト400キロボルト・アンペアの集魚灯用発電機及び同発電機を駆動する出力397キロワットのディーゼル機関(以下「補機」という。)のほか、配電盤、安定器などの電気設備が設置されて補機室となり、同階段の右舷側に補機が、船尾側に配電盤が、同配電盤の船首側に探照灯用安定器、電圧調整器及び原動機用警報盤がそれぞれ設置され、左舷側壁の船首側にキャッチライト用の安定器が5個ずつ2段に積み置かれ、各電気機器間の配線は、すべてキャブタイヤコードが使用されていた。
漁盛丸の操業灯は、船首部に、探照灯1個及び竿に12個の赤色、青色の電球をそれぞれ円状に付けた「丸傘灯」と称するもの各1本、右舷側に、2キロワット電球2個1組とした2組を連掲した省エネルギー型放電管式の「キャッチライト」と称するもの3本、左舷側に、同キャッチライト1本及び長竿に電球18個を連掲した「すずらん灯」と称するものと、同竿の先端方に電球15個の丸傘灯1個と更にその先端方に同型の丸傘灯1個を取り付けた「がんどう」と称するもの1本、及び船尾に、探照灯1個を設置しており、船首部の赤色電球による丸傘灯を除く合計電力は、250キロワットであった。
漁盛丸は、平成7年5月中旬から7月中旬にかけさけ・ます流し網漁を行った後、北海道厚岸港において、前年のさんま棒受け網漁の漁期終了後に取り外して陸上に保管してあった前示電気設備一式を補機室に搬入し、請負業者による機関の整備と同漁への転換作業が実施され、A受審人はこれに立ち会った。このとき、配電盤とキャッチライト用安定器間との配線は、束にされて同室の床面を船尾側壁に沿って敷設され、そのうちの1本に切り継ぎした箇所があり、心線を圧着スリーブで接続し、周辺をビニルテープで巻いていたが、絶縁が完全でなかった。
また、補機室左舷側の壁際には、例年のとおり、予備漁網、魚箱用段ボール、予備電球などが格納され、配線が床面に敷設されていると、船体動揺で予備漁網などが移動して配線が下敷きになり、放熱が阻害されて過熱する可能性があったが、A受審人は、これまで床面に敷設しても問題がなかったので大丈夫と思い、電気工事請負業者に任せ切りとし、キャブタイヤコードを天井からつり下げるなど、敷設方法を適切に行わなかった。
その後、転換作業等を終了した漁盛丸は、同年8月20日からさんま棒受け網漁を開始したところ、船体動揺で予備漁網が移動して壁際に密着するようになり、いつしか前示切り継ぎ箇所が同漁網の下敷きとなっていた。
こうして、本船は、A受審人ほか15人が乗り組み、さんま棒受け網漁の目的で、船首1.80メートル船尾3.00メートルの喫水をもって、同年11月10日07時00分岩手県大船渡港を発し、金華山沖合漁場に向かい、途中、同漁場は漁況が良くないとの連絡を受け、北上して北海道東方沖へと向かい、同日日没とともに操業灯のうち船首及び船尾の両探照灯、両舷の全キャッチライトを点灯して進行中、予備漁網の下敷きになっていた前示切り継ぎ箇所が発熱してビニルテープが溶け、短絡を生じてゴム被膜が燃え上がり、翌11日00時30分北緯41度03分東経143度03分の地点において、予備漁網に燃え移って補機室内が火災となった。
当時、天候は曇で風力1の西風が吹き、海上は穏やかであった。
本船は、キャッチライト及び探照灯が相次いで消え、その直後に補機室出入口から爆音を伴って煙が吹き出したので停船し、自室で就寝中のA受審人は、機関当直中の操機長から発火の報告を受け、直ちに同出入口から携帯用消火器及び放水による消火を試みたが、効果がなく、その後同室を密閉して鎮火を待ち、02時ごろようやく鎮火したので事後の措置に当たった。
火災の結果、予備漁網及び付近配線が焼失し、発電機電圧調整器、配電盤、キャッチライト用安定器、原動機用警報盤等に損傷を生じたが、主機の運転に支障はなく、自力で厚岸港に向かい、同日16時45分同港に入港し、のち修理された。

(原因)
本件火災は、さんま棒受け網漁への転換作業中、船尾倉庫に電気設備などを設置する際、配線の敷設方法が不適切で、予備漁網の下敷きになったキャブタイヤコードが発熱し、同コードの切り継ぎ箇所に短絡を生じて周囲のゴム被膜が燃え上がったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、さんま棒受け網漁への転換作業中、船尾倉庫に電気設備などを設置する場合、キャブタイヤコードを床面に敷設すると漁網などの下敷きになったとき、放熱が阻害されて過熱するおそれがあったから、同コードを天井からつり下げるなど同コードの敷設方法を適切に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人はこれまで床面に敷設しても問題がなかったので大丈夫と思い、同コードの敷設方法を適切に行わなかった職務上の過失により、同倉庫に火災を招き、予備漁網及び付近配線を焼失し、発電機電圧調整器、配電盤、キャッチライト用安定器、原動機用警報盤等に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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