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1998年(平成10年)

平成8年神審第6号
    件名
漁船第三十七鵬洋丸火災事件

    事件区分
火災事件
    言渡年月日
平成10年2月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

工藤民雄、山本哲也、長谷川峯清
    理事官
小野寺哲郎

    受審人
A 職名:第三十七鵬洋丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
賄室を全焼

    原因
火気取扱(電源スイッチ)不良

    主文
本件火災は、調理用の電気レンジ使用後、電源スイッチが切られなかったことによ
って発生したものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成5年4月2日11時15分(アルゼンチン共和国標準時)
アルゼンチン共和国プンタキージャ港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十七鵬洋丸
総トン数 349トン
全長 70.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット
3 事実の経過
第三十七鵬洋丸(以下「鵬洋丸」という。)は、昭和62年10月に進水した、いか一本釣漁業に従事する全通二層甲板中央船橋型の鋼製漁船で、船楼甲板上に船体中央部付近から船尾寄りにかけて二層からなる甲板室があり、上層を船橋や無線室などとし、下層が乗組員の居住区となっていた。居住区には、最前部に2個の居室が船横に並び、両室後方の中央通路を挟んで、右舷側に船首方から4個の居室、娯楽室及び食堂が、また左舷側に5個の居室、その後方に中央の隔壁で食堂と隣接して賄室があり、さらに後部の通路を挟んで、右舷側に空調機室、ロッカー及び糧食庫が、左舷側に洗面所、便所及び浴室などがそれぞれ設けられていた。
賄室は、船首尾方向の長さが6.05メートル、船横方向の幅が、2.30メートル、高さが2.20メートルの区画で、天井と内壁が化粧合板で内装され、一部にステンレス板が張られていた。賄室には、船首側壁面に糧食冷蔵庫が、その後部左舷側に室外船楼甲板へ通じる鋼製出入口扉が、また左舷側壁には化粧合板の上にステンレス板が張られて、その壁際に電気レンジと流し台が順に並び、上壁面に電気湯沸器と皿棚が取り付けられ、さらに船尾に物捨口があり、一方、右舷側壁の前部には、食堂へ通じる木製出入口扉が、その後方に持運び式消化器が、さらに同壁沿いに配膳台が配置され、その上部に食器棚、電子レンジ及び皿棚があって、船尾側壁際に汁物と炊飯用の各電気ジャーがそれぞれ備え付けられていた。
また、食堂には、食卓2台と各食卓の船首尾側に長椅子が、それぞれ右舷側壁から船横に並んで備え付けられていて、船首側壁には前の通路へ通じる、船尾側壁には後ろの通路へ通じる木製出入口扉がそれぞれ設けられていた。
電気レンジは、長さ160センチメートル(以下「センチ」という。)幅55センチ高さ85センチで、3相交流220ボルトが給電され、上面に船首側から順に3キロワットの第2コンロ、4.5キロワットの第1コンロ及び6キロワットの煮炊器コンロ、また下部に3キロワットの2個の魚焼器用コンロのヒーターがそれぞれ配置され、船尾側壁に取り付けられた同レンジ用の操作スイッチ箱には各コンロ毎(ごと)に強、弱、断の三段階切換式の電源スイッチが設けられていた。
A受審人は、さけます漁船やいか釣漁船に船長として約13年乗船したのち、平成4年12月本船に乗り組んで運航に当たっていたもので、B指定海難関係人が、長年遠洋区域の漁船に調理担当として乗船し、十分な経験を有していたことから、動揺が激しいときには揚げ物を控えるよう告げるなどして、賄室の火気の取扱いを任せていた。
一方、B指定海難関係人は、陸上で調理関係の仕事に携わったのち、昭和45年ごろまぐろ漁船に司厨員として乗船し、その後、平成3年11月司厨長として本船に乗り組み、1人で調理を担当して乗組員の食事の準備に当たるほか、甲板作業にも従事していた。
鵬洋丸は、A受審人、B指定海難関係人ほか邦人13人とペルー共和国の作業員5人が乗り組み、アルゼンチン共和国東方沖合の海域において、いか一本釣漁に従事していたところ、漁獲したいか400トンを仲積船に転載するため、船首3.4メートル船尾5.8メートルの喫水をもって、平成5年3月31日07時45分(アルゼンチン共和国標準時、以下同じ。)同国プンタキージャ港の南東165海里付近の漁場を発し、同港に向かった。
本船は、同日21時30分プンタキージャ港外に到着して仮泊したのち、翌4月1日06時40分同港内の南緯50度07分西径68度24分の地点に至って錨泊中の仲積船に接舷のうえ、09時20分転載作業を開始し、22時00分1日目の作業を終え、同月2日07時00分2日目の作業を再開し、漁労長(ぎょろうちょう)船橋に配置して残り全員が魚倉あるいは甲板上で作業に当たった。
B指定海難関係人は、魚倉に入って転載作業に従事したのち、10時30分ごろ賄室に赴いて昼食の準備に取り掛かり、電気レンジの電源スイッチを投入して、4.5キロワットの第1コンロに鍋をのせてカレーを作り、また6キロワットの煮炊器コンロにてんぷら油を入れた鍋をかけてトンカツを揚げた。
こうして、B指定海難関係人は、カレーを作り終えたとき、第1コンロの電源スイッチを断とし、その後、人数分のトンカツを揚げて油切りのため、鍋の縁にのせた長方形の金網の上にトンカツを置いて調理を終えたが、食事の準備を終えてほっとしたことからか気が緩み、煮炊器コンロの電源スイッチを切ることを忘れ、てんぷら油を入れた鍋を同コンロの上に置いたまま、ひと休みするつもりで賄室を離れて隣の食堂に行き、長椅子の上で横になった。
その後、B指定海難関係人は、長椅子の上で横になっているうち、いつしか寝入ってしまい、やがて鍋が過熱し、てんぷら油に引火して天井などに燃え移り、11時15分前示の地点において、賄室が火災となった。
当時、天候は曇で風力4の南西風が吹き、港内は穏やかであった。
A受審人は、前部甲板上で転載作業に当たっていたところ、仲積船の乗組員から煙が出ているとの知らせを受け、火災に気付いて賄室に急行し、他の乗組員とともに消火器や消火ホースなどを使用して消火に当たり、11時45分ごろ鎮火した。
火災の結果、賄室を全焼したが、修理業者の手配ができなかったので、乗組員の手で仮修理を行って操業に従事し、帰国後本修理が行われた。

(原因)
本件火災は、アルゼンチン共和国プンタキージャ港において、賄室の調理用の電気レンジを使用した後、電源スイッチが切られず、同レンジ上に置いたてんぷら鍋が過熱し、てんぷら油に引火したことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
B指定海難関係人が、司厨長として、賄室で電気レンジを使用して調理を行った際、同レンジの電源スイッチを切らなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、その後電原スイッチの状態を確認するなど、火気管理を十分に行うように努めていることに徴し、勧告しない。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。






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