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1998年(平成10年)

平成8年仙審第86号
    件名
漁船隆栄丸火災事件

    事件区分
火災事件
    言渡年月日
平成10年3月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

大山繁樹、釜谷奨一、半間俊士
    理事官
里憲

    受審人
A 職名:隆栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
機関室内の電線、蓄電池、主機始動電動機及び床板ほかを焼損

    原因
電線の絶縁抵抗の測定不十分

    主文
本件火災は、電線の絶縁抵抗の測定が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年8月20日04時40分
秋田県金浦漁港
2 船舶の要目
船種船名 漁船隆栄丸
総トン数 14.90トン
全長 19.99メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 360キロワット
3 事実の経過
隆栄丸は、昭和50年8月に進水し、小型底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、船体中央に機関室が、同室上部に船首側から順に操舵室、機関室囲壁、船員室がそれぞれ配置され、機関室の前後が魚倉となっており、平成7年7月3日金浦漁港の船揚場に上架して船体を整備し、同月10日同漁港の岸壁に係留した。
主機は、昭和精機工業株式会社が製造した6LA-ST型と称するセルモータ始動式のディーゼル機関で、セルモータが主機の左舷船尾寄りに装備されていた。
隆栄丸は、係留後、機関関係の整備工事にかかり、主機のピストン抜きなどのほか、機関室前部に油圧ポンプ駆動用ディーゼル機関を新設することから、電気業者によってこれまで機関室左舷側前部の床上に据え置かれていた主機始動用の蓄電池(12ボルト2個、容量200アンペア・アワー)を機関室左舷側後部の床上に移設し、それに伴って、付属する電線も移設した。
主機始動用の蓄電池とセルモータとの間の電線は、心線がより線の600ボルト電気機器用ビニル電線で、蓄電池を移設した後の配線は、蓄電池を出たプラス側の電線が、蓄電池上方の機関室天井に取り付けられた蓄電池スイッチを経て下に降り、マイナス側の電線と束ねられた後、床下の船底の肋骨上を船首方へ延び、プラス側がセルモータに、マイナス側が主機本体にそれぞれ接続されていた。
A受審人は、床下に配線した前示ビニル電線が、湿気の多い環境下において就航以来長期間使用されたもので、ビニル被覆が劣化している可能性があったうえに、移設後、折れ曲がるなどして絶縁が著しく低下しているおそれがあったが、これまで主機を始動するうえで異状なかったので大丈夫と思い、同電線の絶縁抵抗の測定を行わず、同抵抗が著しく低下していることに気付かなかった。
隆栄丸は、翌8月19日機関室内の工事をすべて済ませ、同日13時主機を始動し、回転数毎分700にかけて3時間無負荷運転を行い、その後、A受審人ほか乗組員2人が機関室内の後片付けに従事し、18時半ごろその日の作業を終え、蓄電池スイッチを切らないまま乗組員及び作業員が帰宅し、船内を無人としていたところ、床下に配線された前示電線が短絡してビニル被覆に着火し、更に周囲の可燃物に燃え移り、翌20日04時40分金浦港灯台から真方位98度205メートルの係留地点において、火災となった。
当時、天候は晴で風力3の南西風が吹き、海上は穏やかであった。
僚船から通報を受けて駆け付けたA受審人は、船橋後部の通風筒から煙が出ているのを認め、機関室を密閉状態として、金浦町消防署に火災の発生を通報した。同日04時50分ごろ消防自動車が到着し、機関室内へ注水して消火にあたったところ、火災は07時ごろ鎮火した。
隆栄丸は、各部を精査したところ、機関室内の電線、蓄電池、主機のセルモータ、床板などのほか、主機取出軸からベルト駆動される交流発電機、直流発電機及び雑用ポンプを焼損し、のち新替えされた。

(原因)
本件火災は、床下の湿気の多い環境下において、長期間使用したビニル電線の移設にあたり、絶縁抵抗の測定が不十分で、主機始動の蓄電池とセルモータとの間の電線が短絡してビニル被覆に着火し、付近の可燃物に燃え移ったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、床下の湿気の多い環境下において、長期間使用したビニル電線を移設した場合、ビニル被覆が劣化している可能性があったうえに、移設に伴って同被覆の絶縁が著しく低下しているおそれがあったから、同電線の絶縁抵抗の測定を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、これまで主機を始動するうえで異状なかったので大丈夫と思い、絶縁抵抗の測定を行わなかった職務上の過失により、同電線の短絡による火災を招き、機関室内電線、蓄電池、セルモータ、主機駆動発電機などを焼失させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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