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1998年(平成10年)

平成9年横審第25号
    件名
漁業調査船やしお火災事件

    事件区分
火災事件
    言渡年月日
平成10年2月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

川村和夫、雲林院信行、勝又三郎
    理事官
安部雅生

    受審人
A 職名:機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
機関室の船底部、警報盤、電線及び2号機付属機器等が焼損、煙害により配電盤及び補機電動機等が使用不能

    原因
主機の運転監視不十分

    主文
本件火災は、出航後、機関室を無人とし、主機の運転監視が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年6月17日08時46分
伊豆大島波浮港南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁業調査船やしお
総トン数 43トン
全長 25.00メートル
従業区域 乙
機関の種類 ディーゼル機関
出力 514キロワット
3 事実の経過
やしおは、平成7年1月に進水したFRP製長船首楼一層甲板型漁業調査船で、上甲板下は船首方から順に、甲板長倉庫、その後方に隣接して左舷方から順に清水タンク、魚倉、清水タンクが、これらの後方に順に居住区、機関室、燃料油タンク、操舵機室が配置され、居住区床下後部中央に1番燃料油タンクが設けられ、上甲板上には、ほぼ船体の中央部に船橋楼があり、船首方から順に操舵室、海図室、調理室となっていた。
機関室は、前壁左舷側に出入口が、船尾側頂部に非常口がそれぞれ設けられ、主機には三菱重工業株式会社が製造したS6Y-MTK型と呼称する、連続最大回転数毎分2,100(以下、回転数は毎分のものを示す。)の過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関2基を1号機(右舷機)及び2号機(左舷機)として備えていた。
主機は、各シリンダに船首側から順に1番から6番までの番号を付け、燃料噴射ポンプと燃料噴射弁が一体となったユニットインゼクタを取り付け、船尾左舷側上部に排気ガスタービン過給機を装備し、1、2、3番各シリンダ用と、4、5、6番各シリンダ用の各マニホルドを、それぞれ伸縮継手を介して過給機入口ケーシングに接続し、同マニホルドには、アスベスト製の断熱材で覆った上を鉄板で囲って防熱措置を施していたが、シリンダヘッドヘの取付けフランジが露出していた。
また、主機は機関室において始動したのち、操縦位置を機関室から操舵室に切り替え、同室において増減速及び前後進の切替えを遠隔操縦するようになっており、データロガーと呼称するプロセスの各所からの情報を収集して、印字記憶する装置を装備していた。
主機の燃料油は、1番及び2番左、右舷各タンクから軽油がそれぞれ1次こし器、流量計を経て供給ポンプによって吸引加圧され、2次こし器を通り、主機上部左舷側を船なりに配管されている供給主管に至り、同管から分岐して、各シリンダのユニットインゼクタを通りシリンダ内に噴射され、各ユニットインゼクタからの戻り油が、供給側主管に平行に配管されている戻り油主管に集められ、冷却器を経て供給ポンプ吸入側から吸い込まれ、各主管には、それぞれ空気抜きプラグが取り付けられていた。
ところで、空気抜きプラグは、C3602B(快削黄銅捧)製のボディ、全長25ミリメートル(以下「ミリ」という。)ねじの呼び径10ミリのプラグ及びパイプで構成され、同パイプにはビニールホースが接続され、主機下方に導かれていた。
A受審人は、平成7年1月本船に乗り組み、機関の運転に当たり、出航するときには、一等機関士とともに機関室に入り、左、右舷両発電機を運転したのち、自ら主機を始動して720の停止回転とし、操舵室に赴いて遠隔操縦に当たり、また、一等機関士には陸上電源ケーブル格納等の作業後操舵室で待機させ、平素回転数を全速力前進に上げて航行状態としたうえ、機関室を見回るまでの間は、同室を無人にしていた。
本船は、翌8年6月12日波浮港を出航し、伊豆諸島北部海域に至って海洋観測を行い、翌13日早朝帰航し、A受審人は、2号機6番シリンダの排気温度が低下していたので、翌14日午前一等機関士とともに同シリンダに属するユニットインゼクタを整備することとし、同インゼクタのノズルチップを新替えしたのち、自ら燃料油供給側主管の空気抜きプラグを緩めて空気抜きを行い、主機を始動して停止回転数の720で試運転を実施し、同プラグ排出口から漏油が認められなかったので、作業を終了した。
本船は、たかべ漁場の資源調査の目的で、A受審人ほか6人が乗り組み、船首0.90メートル船尾2.00メートルの喫水をもって同月17日08時ごろ両主機を始動し、神津島西方の恩馳島付近海域に向け、同時30分波浮港を出航した。
ところが、A受審人は、ユニットインゼクタ整備後の試運転で異状を認めなかったので大丈夫と思い、同整備後初めて2号機を負荷運転するのであるから、燃料油管系の漏油を早期に発見できるよう、当直員を機関室に配置して、主機の運転監視を十分に行わせる措置を取ることなく、機関室を無人としたまま、操舵室で遠隔操縦を行っていた。
こうして本船は、波浮港外に至り、08時32分から徐々に両主機の回転数を上げたところ、2号機燃料油管系供述側主管の締付け不十分となっていた空気抜きプラグが緩み、同プラグ排出口から漏れた燃料油がビニールホースを経て機関室ビルジだめに流れ込んだが、だれもこのことに気付かずにいるうち、同プラグが脱落した。
A受審人は、08時43分データロガーで2号機燃料消費量が通常より高い値を示していることに気付き、不審を感じて検討中、空気抜きプラグの脱落部から噴出した燃料油が上方のエアダクトにあたって飛散し、折から回転数1,980で運転中の同機排気管の防熱覆いのすき間から同管の露出した高温部に降りかかって引火し、火の粉が機関室ビルジだめに落ち、流出していた燃料油に着火して火災となり、08時46分竜王埼灯台から真方位201度2.5海里の地点において、点検に赴いた一等機関士が、機関室の入口扉を開けたところ、同機から炎が立ち上っているのを認めた。
当時、天候は霧で風力3の南西風が吹き、海上は平穏であった。
A受審人は、主機の回転数を650に減じて機関室に赴き、2号機の下部から炎が立ち上っているのを認め、持運び式消火器で消火に当たったが効なく、放水消火に切り替え、主機を非常停止して密閉消化を行い、機関室外側を放水冷却したのち救助を求め、来援した僚船かもめに引かれて波浮港に入港し、鎮火を確認した。
火災の結果、機関室の船底部、警報盤、電線及び2号機付属機器等が焼損し、煙害により配電盤及び補機電動機等が使用不能となったが、のちいずれも修理された。
その後主機燃料油系統の空気抜きプラグには、押さえ金具による脱落防止措置を講じ、また、機関増速運転時には機関室内に当直員を配置する監視体制を取った。

(原因)
本件火災は、主機ユニットインゼクタを整備し、燃料油系統の空気抜きプラグを緩めて空気抜きを行い、同プラグを復旧したのち、初めて負荷運転状態として出航するに当たり、機関室を無人とし、運転監視が十分でなかったため、同プラグが緩んで漏油したまま運転され、そのうちこれが脱落し、燃料油が飛散して主機排気管の高温部に降りかかり引火したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機ユニットインゼクタを整備し、燃料油系統の空気抜きプラグにより空気抜きを行ったのち出航する場合、同整備後初めて負荷運転状態とするのであるから、燃料油管系の漏油を早期に発見できるよう、当直員を機関室に配置して、主機の運転監視を十分に行わせる措置を取るべき注意義務があった。ところが同受審人は、ユニットインゼクタ整備後の停止回転による試運転で異状がなかったので大丈夫と思い、当直員を機関室に配置して主機の運転監視を十分に行わせる措置を取らなかった職務上の過失により、同プラグが緩んで漏油していることに気付かずにいるうち、同プラグが脱落して燃料油が噴出し、排気管の高温部に降りかかって引火し、火の粉がビルジだめの燃料油に落下して火災を発生させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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