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1998年(平成10年)

平成8年広審第77号
    件名
漁船第五大良丸火災事件

    事件区分
火災事件
    言渡年月日
平成10年5月28日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

杉?忠志、上野延之、織戸孝治
    理事官
弓田邦雄

    受審人
A 職名:第五大良丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
機関室、操舵室及び船尾甲板などが焼損、のち廃船

    原因
電気設備(ケーブル)の点検不十分

    主文
本件火災は、蓄電池に配線されたキャブタイヤケーブルの、点検が不十分で、同ケーブルが短絡したことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年11月11日08時30分
広島県広島港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五大良丸
総トン数 19トン
全長 22.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 367キロワット
3 事実の経過
第五大良丸(以下「大良丸」という。)は、昭和61年9月に進水し、専ら採介藻(かき)漁業に従事する幅4.72メートル深さ1.63メートルの1層甲板型のFRP製漁船で、甲板下には、船首から順に船首倉庫、長さ約9.50メートルの魚倉、機関室及び舵機室がそれぞれ配置され、甲板上には、魚倉前部の船首甲板中央部に電動旋回式クレーン、同クレーンの両舷側ブルワーク至近にキャプスタン各1台、機関室の前部上方に操舵室、同室後部の船尾甲板上にさぶた式の機関室出入口、その左舷側に機関室通風機、同通風機の後部に機関室天窓、操舵室の右舷側後部に電圧220ボルト容量15キロボルトアンペアの同クレーン専用移動式交流発電機などが設けられていた。
機関室には、主機として三菱重工業株式会社が製造したS6M2-MTK型と称する過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関2基(以下「右舷主機」 「左舷主機」という。)、船首側中央部に雑用海水ポンプ、左舷主機の動力取出軸に舵機用油圧ポンプ、両主機の前部右舷側にベルト駆動される容量700ワットの充電用発電機各1台、両舷側の船尾寄り床上に電圧12ボルト容量150アンペアアワーの蓄電池各2個、船尾ビルジだめ近くにビルジポンプ、両舷側の蓄電池後部に右舷燃料油タンク及び左舷燃料油タンクなどが設置されていた。
船内の直流電源系統は、塩化ビニルを被覆とした直径約15ミリメートルの単心のキャブタイヤケーブル(以下「ケーブル」という。)で蓄電池2個を直列接続して電圧24ボルトの直流電源とし、右舷側の蓄電池1組が船内の直流電源で、同蓄電池から操舵室に設けられた直流用配電盤を経て船灯、航海計器、作業灯、操舵室及び機関室の各室内灯などに給電されていたほか、キャプスタン、機関室通風機、ビルジポンプ及び雑用海水ポンプにはそれぞれの電路にノーヒューズブレーカーなどを設けて給電されていた。一方、左舷側の蓄電池1組は、主に両主機の始動用電源として用いられ、遠隔操縦装置を設けた操舵室から両主機の発停ができるようになっていて、蓄電池の充電が右舷主機の充電用発電機から右舷側の、及び左舷主機の同発電機から左舷側の蓄電池にそれぞれ行われるようになっていた。
ところで、右舷側の蓄電池から電気機器に至る電路は、各種のケーブルが用いられており、蓄電池からケーブルが束状となって機関室後方から同室の前部隔壁まで右舷側外板の内側に金属製バンドやプラスチック製結束バンドで固定されて導かれ、更に同隔壁から操舵室の直流用配電盤や船首倉庫などに敷設されていたほか、右舷主機の始動用電動機及び充電用発電機などのケーブルと合わさって同主機右舷側の据付け台に沿って船首方にも敷設されていた。また、船内のケーブルは、竣工時のまま継続して使用されており、両主機の運転中、機関室が換気不足のため熱がこもりやすい状態であったうえ、常時通電されていたこともあって硬化気味となっていた。
A受審人は、大良丸の竣工時から船長として乗り組み、機関の保守、整備も担当していた者で、蓄電池については、数年ごとに両舷側の蓄電池を取り替え、半年ごとに電解液量の点検及び同液の補給をするなどして、蓄電池から船内の電気機器に給電していた。しかしながら、同人は、それまで船内の直流電源が喪失したことがなかったので問題はあるまいと思い、平素から、蓄電池に配線されたケーブルを十分に点検することなく、年聞を通じてかきの養殖及び採取作業に従事していたところ、右舷側の蓄電池2個を直列接続するケーブルとキャプスタンのケーブルとが接近して配線されていたうえ、それらが交差していたので、船体の振動などの影響を受けて互いに接触を繰り返すうち、いつしかケーブルの接触部の絶縁被覆が徐々に摩滅して絶縁が著しく低下する状況となっていることに気付かなかった。
こうして、大良丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、養殖かき採取の目的で、船首0.80メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、機関室出入口のさぶたを閉め、機関室天窓を半開及び機関室通風機を吸気運転として両主機が始動され、平成7年11月11日06時50分広島県倉橋漁港を発し、両主機を全速力前進にかけて07時50分ごろ同県似島東方の漁場に至り、両主機を中立運転としたまま船首右舷側のキャプスタンを運転してかきいかだに右舷付けで係留し、甲板員の1人が同いかだに乗り移り、他の甲板員が魚倉上の配置に就き、同受審人が電動旋回式クレーンを操作して養殖かきの採取作業を開始した。
大良丸は、係留作業を終えたとき、船首右舷側のキャプスタンの停止スイッチが操作されず、起動スイッチが投入のままの状態となっており、ギャプスタンが船首係留索を強く巻き込み過負荷状態となって通常電流を超える電流が流れるうち、船首倉庫内に設けられたキャプスタン用容量50アンペアのノーヒューズブレーカーがしばらくして作動したものの、前示ケーブルの接触部の絶縁被覆が破れて短絡を生じ、同被覆に着火して主機などに燃え拡がり、08時30分宇品灯台から真方位200度2,600メートルの地点において、魚倉上で作業中の甲板員が機関室天窓から噴き出る黒煙に気付いてA受審人に報告した。
当時、天候は晴で風力1の北風が吹き、海上は穏やかであった。
電動旋回式クレーンを操作中のA受審人は、機関室の火災を認め、直ちに操舵室に急行して両主機及び機関室通風機を停止し、操舵室備付けの持運び式消火器を手にして船尾甲板に赴き、機関室出入口のさぶたを開けたところ多量の黒煙が墳き出したところから、同消火器を機関室内に向けて放射したものの効なく、そのうち同室内の火勢はいよいよ強くなり、前日に燃料油である軽油を両舷の燃料油タンクに補給したばかりであったので、爆発の危険を感じて乗組員全員でかきいかだに避難し、間もなく大良丸から立ち上る黒煙に気付いて来援したかきいかだ監視船に救助され、同監視船が広島海上保安部、広島水上消防署などに事態を通報した。
その後、大良丸は、巡視艇2隻と消防艇1隻によって海水の放水による消火活動が行われ、10時10分ごろ鎮火し、僚船に曳航(えいこう)されて広島港宇品中央物揚場の岸壁に着岸した。
火災の結果、大良丸は、機関室、操舵室及び船尾甲板などが焼損し、修理費の関係で廃船とされた。

(原因)
本件火災は、蓄電池から船内電源を給電する際、蓄電池に配線されたケーブルの点検が不十分で、蓄電池を直列接続するケーブルとキャプスタンのケーブルとの交差部が互いに接触を繰り返したまま長期間使用され、絶縁被覆が摩滅していたケーブルに通常電流を超える電流が流れて短絡を生じ、同被覆に着火したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、蓄電池から船内電源を給電する場合、船体の振動が激しく、蓄電池に多数のケーブルが近接して配線されていたのであるから、ケーブルが互いに接触を繰り返し、接触部の絶縁被覆が摩滅して絶縁が低下することのないよう、平素から、蓄電池に配線されたケーブルの点検を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、それまで船内の直流電源が喪失したことがなかったので問題はあるまいと思い、平素から、蓄電池に配線されたケーブルの点検を十分に行わなかった職務上の過失により、ケーブルの接触部の絶縁被覆が摩滅し、短絡電流が流れて同被覆の着火を招き、機関室、操舵室及び船尾甲板などを焼損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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