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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年8月2日11時08分 新潟県新潟港 2 船舶の要目 船種船名
旅客船ファルコン 総トン数 163トン 全長 27.43メートル 機関の種類
ガスタービン 出力 5,588キロワット 3 事実の経過 ファルコンは、昭和60年にアメリカ合衆国のボーイング社が製造した最大搭載人員264人の軽合金製水中翼船で、平成8年2月にA株式会社(以下「A社」という。)に購入されたのち、同社が運航する新潟県新潟港と同県両津港間定期航路の旅客船として就航した。同船は、船体の上から下方へ順に上部甲板及び主甲板で仕切られていて、上部甲板の船首部に操舵室、その船尾側及び主甲板に客室が配置され、主甲板の下方が前部機械室、主燃料油タンク、推進機械室及び後部機械室等に区画されており、推進機械室に定格出力2,794キロワット及び同回転数毎分13,820のガスタービン(以下「主機」という。)と軸流式ポンプ等を組み合わせた2基のウォータジェット推進装置を備え、後部機械室の両舷側には、船内電源装置として過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関の原動機(以下、右舷側及び左舷側の同機をそれぞれ「1号補機及び2号補機」という。)駆動の電圧440ボルト容量75キロボルトアンペア3相交流発電機を装備し、また、両補機が各1台の主機始動油圧モータ用油圧ポンプを直結駆動していた。 ところで、主機及び補機の燃料油は、軽油がそれぞれ使用され、主機については主燃料油タンクから電動歯車式の燃料油供給ポンプに吸引された油がフィルタを介して主機直結の燃料油ブースタポンプに至る系統のほか、燃料油供給ポンプが停止した際に切り替わるバイパス系統が配管されており、一方、補機については燃料油供給ポンプに吸引されてフィルタの出口管から分岐した油が後部機械室の船尾側に設けられた容量352リットルのデイタンクと呼ばれる燃料油タンク(以下「補機用燃料油タンク」という。)に取入れ用の電磁弁を経て送られるように配管されていた。そして、補機用燃料油タンクは、操舵室の機関長席の計器盤に遠隔表示の油面計(以下「油面計」という。)を装備しており、油の補給開始が手動操作で行われる構造で、油面計のそばに取り付けられたトグルスイッチを入れると油が送られ、所定の油量に満たされるとフロートスイッチの作動により補給が自動停止するようになっていたものの、油面低下警報装置を備えていなかった。 A受審人は、平成9年4月4日に一括公認認船舶の機関長として雇入れされ、A社が所有する5隻の水中翼船に初めて乗り組む前に1箇月間の習熟訓練を受け、翌5月上旬に船長、一等航海士、機関長及び一等機関士から構成される水中翼船の乗組員チームの一員となり、各船の機関の運転保守に従事した。同人は、越えて8月2日06時30分ファルコンに同チームのほかの3人と共に乗り組み、補機を始動して新潟港発08時00分初便の片道1時間の往復航海に就き、両津港における30分間の停泊を挟んて新潟港に帰着し、補機の運転を続けたまま、10時55分操舵室で次の発航準備を開始した。 発航準備にあたったA受審人は、補機用燃料油タンクが前日昼前に一等機関士により満たされてから補給されないままにほとんと空槽の状態となっていたところ、これを油面計で認め得る状況にあった。 しかし、A受審人は、補機用燃料油タンクの油がいつも補給されていて間に合っていたことから、補機の運転には差し支えないものと思い、同タンクの油量を油面計で十分に点検しなかったので、同タンクの前示の状態に気付かず、油を補給しなかった。 こうして、ファルコンは、旅客258人及び作業員2人を乗せ、船首1.18メートル船尾1.48メートルの喫水で、定刻の11時00分新潟港を発して両津港に向け増速を始め、同時04分船体を水面上に持ち上げて離水し、新潟港内を30.0ノットの対地速力で航行中、補機用燃料油タンクが空槽となり、同時05分1号補機が同タンクの取出管の長さの関係で先に燃料油切れとなって停止した。同船は、直ちに減速して船体が着水した状態で水路の中央を進行中、11時08分新潟港西区西突堤灯台から真方位185度610メートルの地点において、2号補機も続いて停止し、船内電源装置の停電により燃料油供給ポンプが停止した影響を受けて主機が停止し、操船不能のまま漂流した。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期であった。 操舵室で機関の運転を監視していたA受審人は、一等機関士及び作業員を後部機械室に赴かせ、補機用燃料油タンクの空槽であることが判明したものの、同タンクに送油する手段を失って船内電源を復旧することも、主機を始動することもできない事態となり、その旨を船長に報告した。 ファルコンは、無線でA社に救助を求め、来援した僚船により新潟港の岸壁に曳航され、旅客を下船させたのち、陸上側の支援を得て補機用燃料油タンクに油を補給する措置をとり、補機を始動して常態に復旧し、同港発14時15分の臨時便から運航を再開した。
(原因) 本件運航阻害は、発航準備の際、補機用燃料油タンクの油量の点検が不十分で、航行中、同タンクが空槽となって補機が停止し、船内電源装置の停電の影響を受けて停止した主機の始動ができなくなったことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、発航準備にあたる場合、補機が燃料油切れとなって停止すると船内電源装置の停電により不測の事態を引き起こすおそれがあったから、補機用燃料油タンクの油量を油面計で十分に点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、補機用燃料油タンクの油がいつも補給されていて間に合っていたことから、補機の運転には差し支えないものと思い、同タンクの油量を油面計で十分に点検しなかった職務上の過失により、油を補給しないまま発航して燃料油切れによる補機の停止を招き、船内電源装置の停電の影響を受けて停止した主機の始動ができない事態を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |