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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年6月20日04時25分 北海道積丹半島東方沖合 2 船舶の要目 一3176一 船種船名
油送船第三十一つばめ丸 総トン数 89.30トン 登録長 23.98メートル 機関の種類
4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力
169キロワット 回転数 毎分900 3 事実の経過 第三十一つばめ丸(以下〔つばめ丸」という。)は、昭和46年5月に進水し、北海道小樽港を根拠地として主に同港及び石狩湾港に停泊中の船舶に燃料油及び潤滑油を供給する船尾船橋機関室型の鋼製タンカーで、主機として、ヤンマーディーゼル株式会社が製造した6MA型と呼称するディーゼル機関を装備し、軸系には逆転減速機を備えていた。 主機は始動空気式で、容量80リットルの主始動空気だめが、機関室左舷側の船首寄りに2個備えられ、圧縮空気が燃料カットしたシリンダから充気されるようになっていたが、始動空気圧力が最大30キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)のところ充気系統の逆止め弁の不調で14キロまでしか上がらない状態であった。 また、主機の燃料油系統は、機関室下段の両舷側に設置された燃料油タンク(以下燃料油系統の機器名については「燃料油」を省略する。)内のA重油が、ハンドポンプで同室上段の容量800リットルのサービスタンクヘ移送され、同タンク取り出し弁から、沈殿槽、こし器を順に通って機関入口弁に至り、機付きフィードポンプで加圧されて各シリンダの噴射ポンプに供給されるようになっていた。 ところで、機関入口弁は、主機前部左舷側の操縦ハンドル前の下方に設けられた呼び径25ミリメートルの玉型弁で、バルブハンドル車を麻ひもで固縛して常時全開状態としていたが、いつしか、その麻ひもが切れて同ハンドル車が振動で緩み、弁棒が次第に閉弁方向へ回転していた。 A受審人は、平成10年4月1日A株式会社に入社し、同社が所有しているつばめ丸及び第二十八つばめ丸に、船員としての雇入手続を受けないまま必要に応じて機関長あるいは甲板員として乗り組んでいたところ、つばめが丸、定期検査工事施工のため函館市内の造船所へ回航をすることになり、同年6月20日未明、同人が機関長として乗り組み、燃料油をハンドポンプでサービスタンクヘ満タンになるまで移送するなどして主機の始動準備に当たった。ところが、同人は、燃料油系統の弁はすべて開弁状態で使用しているものと思い、機関入口弁の開閉状態を確認しなかったので、弁棒が閉弁方向に回転していることに気付かないまま主機を始動した。 こうして、つばめ丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、03時10分小樽港を発航して函館港に向かい、主機を回転数毎分800の全速力にけて北海道積丹半島東方沖合を航行中、機関入口弁の弁棒の回転が更に進んでほとんど閉弁状態となったため燃料油の供給量が著しく減少し、04時25分高島岬灯台から真方位300度7.5海里の地点において主機が停止した。 当時、天候は雨で風力1の南南西風が吹き、海上は穏やかであった。 A受審人は、徐々に回転が下がって静かに停止したことや、主機に過熱が認められなかったことなどから燃料油切れと判断してサービスタンクを点検したところ、油量が満タンに近く、また同タンク取り出し弁が開弁状態であることを認めたものの、依然として機関入口弁の開閉状態を確認しないまま、噴射ポンプ出口側の高圧管を緩めるなどして空気抜きを行ったのち主機を始動したところ、着火して回転が上昇しかかったところで停止し、主空気だめを切り替えて再始動を試みたが今度は着火せず、2度の始動操作で主空気だめの圧力が2個とも最低始動圧力以下となり主機の始動を断念した。 つばめ丸は、小樽海上保安部に通報して救助を依頼し、08時40分来援した巡視船に曳(えい)航されて10時40分小樽港外に至り、第二十八つばめ丸によって港内の係留岸壁に引き付けられ、修理業者が調査した結果、機関入口弁がほとんど閉弁状態であるのが判明したので同弁のハンドル車を全開状態としてワイヤで固縛し、のち始動空気の充気系統の逆止め弁を新替えした。
(原因) 本件運航阻害は、小樽港発航前に主機の始動準備をする際、燃料油機関入口弁の開閉状態の確認が不十分で、同弁の弁棒が機関振動の影響で閉弁方向に回転した状態のまま発航し、航行中、閉弁が進んで燃料油の供給不足となって主機が停止し、主機が再始動不能となったことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、小樽港発航前に主機の始動準備をする場合、燃料油系統の弁が振動など閉弁方向に回転していることがあるから、燃料油機関入口弁の開閉状態の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、燃料油系統の弁はすべて開弁状態になっているものと思い、燃料油機関入口弁の開閉状態の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、航行中の同弁がほとんど閉まった状態となって燃料油不足による主機の停止を招いたうえに、主機の始動ができず、主機の運転が不能となるに至った。 |