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1998年(平成10年)

平成10年神審第45号
    件名
漁船第六寳來丸運航阻害事件

    事件区分
運航阻害事件
    言渡年月日
平成10年11月10日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

山本哲也、佐和明、西林眞
    理事官
岸良彬

    受審人
A 職名:第六寳來丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
なし

    原因
燃料油タンクの油量確認不十分

    主文
本件運航阻害は、燃料油タンクの油量確認が不十分で、多量の清水が同油管系に混入したことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年12月13日14時20分
石川県禄剛埼沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第六寳來丸
総トン数 138トン
全長 35.82メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 514キロワット
3 事実の経過
第六寳來丸は、いか一本釣り漁業に従事する昭和51年4月に進水した鋼製漁船で、船体の後部寄りに位置した機関室には、中央部に主機とし株式会社新潟鉄工所が同年に製造した6MG22X型ディーゼル機関が据え付けられ、その両舷に発電機用補助機関(以下「補機」という。)が各1基備えられていた。また、機関室中段後部には、容量約400リットルのセットリングタンク及び約300リットルのサービスタンクに仕切られた燃料油常用タンクが設置されていた。
燃料油系統は、燃料油タンクから移送ポンプにより吸引されたA重油が、セットリングタンクに自動移送され、清浄機で清浄されたのち、サービスタンクに入って主機及び補機に供給されるようになっていたものの、いつのころからか、セットリング及びサービス両タンクは連絡管の中間弁を常時開放し、一体タンクとして使用されていた。
本船は、建造後、機関室後方の舷側両舷に設けられた各2個の船体付き燃料油タンクのうち、船首側の両舷タンクを清水タンクに、船尾中央の清水タンクを燃料油タンクにそれぞれ変更する改造工事が行われた際、両舷清水タンクと後方の船体付き燃料油タンクとが隣接することになったが、それぞれ鋼壁で仕切られたままで鋼船構造規程に定められたコファダム等の新設が行われなかったため、清水タンクと燃料油タンクとの仕切鋼壁が腐食して破孔を生じると清水と燃料油が混入しあうおそれがあった。
ところで、本船は、飲料水用として使用している左舷清水タンクに清水を積み込むと、そのタンクトップにある乗組員居住区の食堂に清水が溢(あふ)れ出るようになったことから腐食が発見され、平成7年4月の合入渠工事で同タンクトップ及び左舷外板一部の切替え修理が行われていた。
A受審人は、平成6年2月から機関長として本船に乗り組み、機関の運転管理に当たっていたが前示の左舷清水タンクの状態から、雑用に使用されていた右舷清水タンクの腐食状況も気になり、同8年3月の定期検査工事の際、1人で同タンクに入り、掃除を兼ねて内部点検を行ったところ、同タンクと後方の燃料油タンク(以下「右舷燃料油タンク」という。)とを仕切る鋼壁のほぼ中央部が腐食して燃料油がにじんでいるのを認めた。
そこで、同人は、船主及び船長が共に不在だったことから、自らの判断で下請けの溶接工に依頼し、同箇所のダブリング修理を行わせたが、腐食が同鋼壁全体に及んで新たな腐食破孔が発生するおそれがあったから、船主らに報告して対応を協議するとともに、右舷燃料油タンクを使用する前には、清水が混入して油量が増加していないか、測深を行って確認する必要があった。
本船は、休漁明けの同年6月1日、基地としている石川県小木港から出漁し、日本海側を中心に操業を続けていたところ、前示鋼壁の腐食箇所のダブリング修理について船主らに報告されないまま、同年11月ごろ同鋼壁の腐食が進行して新たな破孔が発生し、同清水タンクの清水が右舷燃料油タンクに混入し始めた。
A受審人は、同年12月13日、同港での水揚げを終えて再び操業のため、出港する際、燃料油使用タンクを右舷燃料油タンクに切り替えることにしたが、同鋼壁のダブリング修理を行ったので大丈夫と思い、同タンクの測深を行って油量の確認を行わなかったため、多量の清水が混入していることに気付かなかった。
こうして、本船は、A受審人ほか6人が乗り組み、同日12時00分小木港を発し、主機を回転数毎分850にかけて漁場に向け航行中、右舷燃料油タンクに混入した多量の清水が燃料油常用タンクに自動移送され、やがて燃料油系統に入り込んだため、14時00分運転中の右舷補機の回転が低下して船内電源が喪失した。
機関室で冷凍機の調整を行っていたA受審人は、直ちに左舷補機を始動して電源を確保し、右舷補機の点検を行っていたところ、やがて左舷補機の回転も低下し始めたため、燃料油系統に異状が発生したものと思って主機を停止したところ、間もなく左舷補機も停止して再び船内電源が喪失した。
このため、A受審人は、セットリングタンク及びサービスタンクのドレン弁を開けると大量の清水が出てきたので、両タンクの燃料油を抜いてビルジウェルに落とし、燃料油管の清水をできるだけ排除したのち、使用タンクを船体付き燃料油左舷タンクに切り替え、ハンドポンプを使用して両タンクに燃料油を送り、補機のプライミングを行って再始動を試みたが、両舷機とも始動するものの、短時間で停止してしまい、そのうち始動空気圧も低下したため、同日14時20分禄剛埼灯台から真方位000度2海里の地点において、自力航行を断念した。
当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、海上は隠やかであった。
本船は、海上保安部及び僚船に救助を求め、来援した僚船により小木港に引き付けられ、修理業者の手により燃料油管が取り外されて系統内の清水がすべて排除され、以後右舷燃料油タンクを使用止めとし、翌14日から操業を再開した。

(原因)
本件運航阻害は、隣接する燃料油タンクの一方がコファダムを設けないまま清水タンクとして使用され、仕切鋼壁が腐食して生じた破孔から多量の清水が燃料油タンクに混入した際、同燃料油タンク使用前の油量確認が不十分で、燃料油常用タンクに自動移送された多量の清水が同油系統に混入したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、入渠中に清水タンクの内部を点検し、隣接する燃料油タンクとの仕切鋼壁が腐食していることを認めてこれを修理した場合、新たな腐食破孔が発生して同燃料油タンクに清水が混入するおそれがあったから、同燃料油タンクの使用前には、清水が混入して油量が増加していないか、測深を行って確認すべき注意義務があった。ところが、同人は、同鋼壁はダブリング修理を行ったので大丈夫と思い、同タンクの油量が増加していないか測深を行って確認しなかった職務上の過失により、同鋼壁の腐食が進行して新たな破孔が発生し、多量の清水を燃料油系統に混入させ、自力航行が不能となるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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