監訳者の序文
現在、私達は様々な環境問題に直面しています。地球温暖化や砂漠化、海洋汚染、ダイオキシンなど、あまりに問題が大きすぎ、深刻なために、他人事のように考えたり、諦めてしまいがちです。しかし、これらの問題は1人1人の環境認識が培われ、そのライフスタイルが改善されないと解決できない課題です。
一方、ささいなことに見えるものでも原因は複雑であり、深刻な結果を生み出しているものも少なくありません。例えば、川や池の草土手について考えて見ましょう。以前は牛やヤギが草を食み、農家も草を刈って田畑に鋤き込み有機肥料にしていました。そこでは、牛やヤギの嫌う草、それに農家の草刈りに耐える多様な草が生き残って、次々と花を咲かせ、種々の野鳥やキリギリス、スズムシなどの昆虫も生息できましたから、大人も子供も楽しめました。
ところが、農家が牛やヤギを飼わなくなり、化学肥料を使うようになった現在では、都市化が進んでしまったところを含めて、もはや草は役に立たないので、除草剤で一斉に枯死させたり、草刈りの手間を省くために土手をコンクリート張りにしてしまうことも少なくありません。こうして、ここでも多くの動植物が消えてゆき、そして私達の生活環境も確実に貧しいものになっているのです。
近年、このような事態を傍観できない人々が地域住民や市民に呼びかけ、余暇活動の楽しみとして草刈りを担ったり、放置されて密生する里山の雑木林やスギ・ヒノキ人工林を間伐したり、さらに崩壊が進む棚田の修復、ゴミやヘドロのたまった小川の再生、そして身近な場所での緑化や緑の管理と、様々な活動にボランティアで取り組むようになりました。
しかし、活動を進めようとしても、どのように呼びかけたらよいのか?、どのように活動グループをつくり運営したらよいのか?、さらに、どのようにして活動場所を見つけ、作業すればよいのか?、技術指導や道具は?、資金は?、と分からないことだらけです。この本はそのような人々のために、1959年にロンドン郊外で42名の会員で発足し、現在では英国全域で活動を展開しているBTCV(British Trust for Conservation Volunteers:英国環境保全ボランティアトラスト)が、ほぼ40年にわたる活動実績と経験にもとづき、そのノウハウを具体的に分かりやすく解説したものです。
国情や民族は違っても、環境保全や環境回復に対する市民の“思い”や“情熱”それに環境問題の本質は同じです。できるところから活動を始め、できるだけ多くの人々に参加してもらうことによって、単に環境保全や環境回復が進むだけでなく、共通の楽しみや連帯感が広がり、より深い環境認識とそれに則したライフスタイルが培われていくのです。そして、それは冒頭にあげた地球規模の環境問題の解決にもつながったものとなります。
日本語版の発行に当たり、ご快諾いただいたBTCV国際開発部長のAnita Prosserさんをはじめとする各位、下訳を担当していただいた植田久子さん、また、編集のお世話をいただいた日本財団ボランティア支援部の高木純一さんに感謝いたしますとともに、この本が、既に活動に着手したもののうまく展開できないでいるグループや、これから活動を始めようとしている人々に、さらに、ボランティア活動を支援しょうとしている多くの方々に役立つことを願っています。
1999年11月
九州芸術工科大学 環境設計学科
教授 重松敏則