スティーヴン・イッサーリスの文化的背景を眺めるだけでその出身の素晴らしさが分かる。祖父はロシアのピアニスト兼作曲家、ユリウス・イッサーリスであり、その家系は、メンデルスゾーン家やカール・マルクス家などと複雑多岐に絡み合っている。
イッサーリスの芸術的側面は、強い個性的な特徴に彩られている。まず、自分の信念により使用しているガット弦から生まれる(これだけが理由ではないが)比類無く美しい音。選択するレパートリーの多様さ。音楽学的な追求解明作業への情熱・・・これによって何十年も聴く人とて無かった作品を何曲か復活させている。そしてとりわけ重要なのは、自分の演奏する音楽に対する明確な信念と情熱を持っているということである。
イッサーリスの優秀さは国際的に認められ、1998年には音楽分野における多大なる貢献に対し、英国からCBE勲章を授与された。1993年米国ピアディゴルスキー芸術賞を受賞、英国ではロイヤル・フィルハーモニック協会から、「長く記憶に残る上質の演奏と、音楽の意味するものを聴衆に伝える信頼すべき才能」に対して年間最優秀器楽演奏家賞が贈られた。
イッサーリスは、世界一流のオーケストラと指揮者からの出演要請が多く、それに加えて、古楽器のアンサンブルとの演奏も積極的に行っている。イッサーリスの音楽活動の範囲は教育にも及び、IMSプロシア・コーヴの国際マスター・クラスと室内楽フォーラムの芸術監督をつとめている。イッサーリスの発案による室内楽シリーズも高く評価され、代表的なものには、1997年ザルツブルク・フェスティバルの際のメンデルスゾーン・プロジェクトや1989年のシューマン・フェスティバルなどがある。シューマン晩年の作品に焦点を絞った英国のチャンネル4テレビ番組に司会と演奏者をかねて出演して以来、シューマンはイッサーリスの特別な情熱を燃やす対象となった。また、音楽関連の文章を書くのが得意なイッサーリスは、定期的にコンサート・プログラムやCDの解説を書く一方、ガブリエル・ウルフと共同でシューマンの生涯について執筆している。
イッサーリスはRCAビクター・レッド・シールと専属録音契約を結び、次々に変化に富むレパートリーを出版して来た。最近では‘チェロ・ワールド’という小品を集めたCDがリリースされた。イッサーリスのレコーディングにはベスト・セラー・チャートにランクインしたものが数点あり、国際グラモフォン大賞やドイツ・レコード大賞を獲得している。