6 内容等
放射線が誘導するアポトーシス現象は、研究者のあいだで古くから注目されてきた。アポトーシスは、放射線により誘導されるのみならず、個体発生において、また生体の恒常性を保つためにも重要な働きをしていることが明らかになり、その重要性が注目を集めている。近年アポトーシスの分子機構の研究が進み、放射線による誘導機構の一端も解明されつつある。本学会では、このような機運をうけ、平成11年1月14日(木)に東京大学本郷構内の山上会館で、学術協力財団の共催のもとに「放射線とアポトーシス・・・意義と機構」と題した学術シンポジウムを開催した。本シンポジウムでは、先ずアポトーシス全般の機構について大阪大学の辻本氏による講演がなされた。辻本氏はB細胞リンパ腫の転座の研究からbcl-2遺伝子を発見され、以来アポトーシス研究において世界をリードする研究を進めておられる。ついで、東邦大学医学部の山田武・大山ハルミの両氏により「放射線誘発アポトーシス」という題で、主として胸腺細胞の放射線間期死の研究の紹介がなされた。放射線誘発アポトーシスの機構としてくDNA損傷によるp53を介する経路と、膜変化によるセラミド生成経路が明らかにされている。神戸大学の藤原美定・趙ちん利両氏は「放射線アポトーシスの機構─p53ミトコンドリアとDNasesを中心に─」の演題で放射線誘発アポトーシスの分子機構についての講演を行った。さらに東京大学の嶋昭紘氏および西垣玲子氏は「紫外線誘発アポトーシスの光回復による回避・・・ピリミジン二量体の役割」について論じた。放射線医学総合研究所の安藤興一は、「腫瘍におけるアポトーシスの意義」との題で、これまでの放射線治療とアポトーシスについて関係や先生の重粒子線を用いた研究成果について発表した。最後は、奈良医科大学の大西武雄氏が「癌治療への応用-先行指標から治療法へ」について論じた。これらの講演の後に総合討論がもたれ、多くの若い参加者を交えた議論が活発になされた。