6 内容等
シンポジウムは、休憩を挟み1部の問題提起と2部のパネルディスカッションの構成で、慶応大学の高橋良子教授の進行により行われた。
1部では、先ず家族社会学を専門とする西宮氏が、民間電話相談機関「こども110番」の相談員・顧問の経験から、現代の子供達が抱える校内暴力・いじめ・不登校・性非行などの様々な問題は現在の日本の社会状況の投影であるとした上で、子ども達は見えない将来に対する不安と共同体の希薄さから人間関係での孤立感を抱えていて、身近な人達とのコミュニケーションを切望しているが先生や親達に相談したり会話を交わすことができない子どもが増えていると報告した。そこで身元が分からない電話相談員に電話をかけてくるが、子供達の多くが悩みの答えでなく、人との会話を求めていることを明らかにした。次に、新道教授が母性看護の立場から、母と子どものコミュニケーションに問題があり、自分の子どもを可愛いと思えない母親が増え、母親が子どものサインを読みとれなくなっている。その背景として、核家族・少子化と女性の社会進出により子どもに接したりする機会が減っているためであると報告した。一方、石井教授はコミュニケーション学の視点から問題点をマクロ的に捉え、現代日本の精神的荒廃や倫理感の低下は経済至上主義である社会システムの社会的悪循環が引き起こしており、これからの社会にはパラダイムシフトが不可欠であると述べた。
第2部のパネルディスカッションでは、まず、事前に会場の参加者に配布していた質問状や会場からの質問に答えた後、発題者がそれぞれ意見と結論を述べ、モデレーターの高橋教授がシンポジウム全体をまとめる形で行われた。
西宮氏は結論として、問題にうち勝つ力、耐える力を養うことが必要であり、そのためには学校教育におけるグループワークの重要性、コミュニティハウスの設置とプログラム化、家庭・学校・地域との連携によるボランティア活動等の必要性を強調した。新道教授は、家庭における父親の役割と育児への積極的参加、母親が子どもに対してポジティブなイメージを持つことが大切であると述べた。一方、石井教授はレールからはずれたものを悪と決めつけないことや金持ちになることはことはいいことだという考え方や価値観を変えなくはいけないと主張し、マス・メディアの役割の重要性、学校・家庭・地域の役割と教育のあり方、更には組織や学校におけるカウンセリング制度の確立等の重要性を指摘した。
シンポジウムのテーマが現代の日本社会が抱えている様々な人間どうしのコミュニケーションの問題だけに参加者の関心が強く、活発な質疑応答が行われた。