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6 内容等

計測システムに逆問題解法機構が内蔵されていることは、計測技術者の共通の認識である。計算機の能力の著しい向上とあいまって、逆問題解法アルゴリズムも、標準的に使われる手法の定着が進むなどツールとして整備されつつある。このような状況下でロバストな計測システムの構築にあたっては、測定対象と「場」とのかかわりを正確に同定しモデル化することがが不可欠であり、構築されたモデルに基づくシミュレーション技術が、計測方式・計測装置の効率よい開発にとって果たす役割は大きい。本シンポジウムでは、測定対象の正確な同定とモデル化、さらにはこのモデルに基づくシミュレーションが、「ロバスト」な計測システムの効率よい開発にとって不可欠であるとの視点から、鉄鋼計測で多用される超音波・電磁気・光・流れの各分野について、「場」の同定とシミュレーション技術の現状と課題について各講師より紹介がなされ、ディスカッションが行われた。

基調講演を御願いした北森先生(法政大;日本鉄綱協会計測・制御・システム工学部会前部会長)は、計測とシミュレーションの関係を明らかにした上で、モデルの正確さを高めていくことの重要性について述べられ、これを踏まえて「モデルの同定方法」「モデルの改良方法」についての考察につき報告された。引き続き、各計測分野毎に、まず吉村先生(東大)から超音波を用いた欠陥検査における逆問題解法へのニューラルネットワークの適用の事例が、また、小島先生(大阪工大)から電磁気探傷における対象場のシミュレーションを用いた欠陥情報のパラメータ推定手法が紹介された。さらに、岡先生(北大)から偏光位相シフト量(リタデーション)をベースとした鋼板表面の光学モデルの検討事例が、最後に早瀬先生(東北大)から有限個の流速測定結果から「オブザーバ」を用いて全体の流れ場を推定する手法について紹介があった。

これらの講演を受けて、講師・参加者のフリーディスカッションが行われ、「検証」を含めた「モデル化」の課題について、制御分野の現状の紹介や計測分野との違いに関する議論も交えて討論がなされた。

日本鉄鋼協会計測・制御・システム工学部会「計測におけるロバスト化」フォーラムでは鉄鋼計測の各分野毎に、最新技術の紹介とディスカッションとを通じて、その計測技術を「ロバスト化」という視点で整理し、今後取り組むべき開発の方向を見極るべく活動している。本シンポジウムは、その一貫として企画されたものであり、これまでに行われたフォーラムにおいて提起されていた、モデル化を通じ現象を把握し対象を深く理解することが「ロバスト」な計測システム実現にとって不可欠であるとの認識が参加者の間で再確認され、また、フォーラムのテーマである「ロバスト化」という概念に対する共通の認識が醸成され、今後のフォーラムの活動にとって意義あるシンポジウムであった。

 

 

 

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