日本財団 図書館


海域における犯罪取締活動上の問題点

―追跡権の不当な行使に関連して―

海上保安大学校助教授  北川 佳世子

 

1. はじめに

 

国連海洋法条約第111条第8項は、「追跡権の行使が正当とされない状況の下に領海の外において船舶が停止され又は拿捕されたときは、その船舶は、これにより被った損失又は損害に対する補償を受ける」と規定する。

同条同項により補償の対象となる不当な追跡権の行使とは、追跡権行使のための要件を欠く場合に他ならない。もとより不当に追跡されたからといって当該外国船舶が直ちに補償を受けるというわけではなく、当局による不当な追跡権の行使から、当該船舶が損失・損害を被ったという事実、例えば、不当な停船命令・臨検・捜索・拿捕・引致等により航行利益が妨げられたり、当局による不当な追跡権行使に付随して、船舶または船中の人・財産に損害が発生した場合等の結果が発生しなければならないが、逆に、外国船舶が損失、損害を被っても追跡権の行使が不当でなければ、沿岸国は国際法上責任を負わなくてもよいということになるであろう。本稿では、海域における犯罪取締活動に付随して起こる追跡権行使をめぐるいくつかの問題点を取り上げることにしたい。

 

2. 追跡権行使の要件

 

(1) 国連海洋法条約上の追跡権規定

ところで、国連海洋法条約111条では第1項から第7項において国際法上適法とされる追跡権行使の要件が定められている。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION