第4章
結論と今後に残された課題
本編では、コンテナ定期輸送市場均衡を港湾管理者、船社、荷主の3種のプレーヤーがゲームを行うスタッケルベルグ均衡問題として捉え、モデルの定式化を行い、阪神港、京浜港の港湾料率や荷役料率の変化が市場に与える影響を定量的に分析した。第1章では、モデルの定式化について述べ、第2章では、1993年時点のコンテナOD表を作成し、モデルの現象再現能力を検討した。その結果、モデルは現状の船社、荷主の動きをよく再現できることが確認できた。第3章では、このモデルを用いて、阪神港、京浜港の港湾料金および荷役料金の変化が市場に与える影響を、東アジアを中心に検討を行った。その結果以下の点が明らかになった。
1] 阪神港の港湾利用料の釜山港並みの低減は、名古屋港、関門港の背後圏を脅かし、阪神港の輸出入貨物を増大させる。また、釜山港のトランシップ貨物シェアを奪うと同時に近隣外国港湾、特に、上海港からのトランシップ貨物を増大させる。
2] 阪神港で荷役料金を釜山港並みに低減させると、港湾料金の低減以上に効果があり、京浜港のトランシップシェアも奪う結果となる。さらに釜山港のトランシップを奪う率が拡大すると同時に、上海港からのトランシップはさらに拡大する。
3] 阪神港と京浜港で同時に港湾料率を釜山港並みに低下させると、国内では、名古屋港、関門港がシェアを減らし、京浜港はほとんど変化しない。しかし、やはり阪神港のトランシップ貨物は拡大する。
4] 以上の政策は、船社の利潤を現在の120%近く拡大させるので、船社は大きく配便戦略を変える結果となる。
5] 一方、国内荷主には、トータルとして輸送費用が増大すものの、その増大は船社利潤の拡大に比較すると微々たるものである。当然、阪神港や京浜港の背後圏荷主は輸送費を約1割減少させることができる。
北米・欧州航路については、アジアの国際港湾の間での競争が激しく、船社は日本の外貿港湾には分散して寄港することは避ける傾向となる。したがって、主要航路のコンテナ・ターミナルを抱える阪神港では、その料金政策は港湾の効率を高め、極めて大きな効果をもたらす。