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2) 両港が完全に合併するケース

この場合にも、提携戦略変数であるコンテナ化率は、上の独自経営の合併のケースでのとらえ方と同じく、

[神戸港と大阪港のコンテナ貨物/神戸港と大阪港の製品貨物の合計]

である。しかし神戸港と大阪港の輸出物流の総計を決定するその他の行動変数がどのような形を採るかについては、全く既存の行動様式に制約されない。完全合併というバーチュアルな環境の下で、最も確実で信頼性が高い行動変数が選択される。

そこで、以下においては、このような前提の下で、次の項目の順に考察を進める。

・ 神戸港の既存経営方式の下での事業部制的経営と大阪港を併合した経営

・ 大阪港の既存経営方式の下での事業部制的経営と神戸港を併合した経営

・ 神戸港と大阪港を完全に合併した新方式の下での経営

 

(2) 神戸港の既存経営方式の下での事業部制的経営と大阪港を併合した経営

神戸港の既存経営方式を踏襲した事業部制的経営と大阪港を併合した経営の推定結果は、図表I-3-5とI-3-6のとおりである。その中から、韓国に対する輸出物流のケースを抽出したうえで、現行経営、事業部制的経営、大阪港を併合した経営の3タイプにつき、提携戦略変数であるコンテナ化率に加えて、輸出行動を基本的に規定する日本のアジア9か国・地域向けの直接投資、アジア9か国・地域のGDP、日本とアジア9か国・地域の為替相場比率、および神戸港のコンテナ貨物集中度の作用を、対韓国輸出物流を例にとって経営タイプ別比較対照表として、一括して示したのが図表I-3-7である。ここで対韓国輸出物流を選択したのは、これが概ね対アジア輸出物流の標準的な作用を示していると見られるからである。

ここで図表I-3-7にまとめられた標準的な推定結果を比較しよう。確かに神戸港の経営形態の変化によって、日本のアジア9か国・地域向けの直接投資、アジア9か国・地域のGDP、日本とアジア9か国・地域の為替相場比率が輸出物流に及す作用には、若干の相違が見られるけれども、その差は、戦略変数であるコンテナ化率とその直接的な結果を表す戦略効果変数といってよい神戸港のコンテナ貨物集中度に現れた作用と比較すれば、はるかに小さいものである。

そこで大きな変化が現れたコンテナ化率弾力性と神戸港のコンテナ貨物集中度弾力性に注目すれば、両者はトレードオフの関係にある。なぜならコンテナ化率弾力性は大きい値をとるほど戦略効果も大きいのに対し、神戸港のコンテナ貨物集中度弾力性は現在のようにこの値が低下しつつある状況の下では、大きな弾性値を示すほど逆に戦略的には不利になるからである。経営が現行経営から、事業部制的経営を経て合併方式に移行するに連れて、コンテナ化率弾力性は現行方式の1/2から1/3へと低下して、ここに好ましくない状況が現れるのに対して、神戸港のコンテナ貨物集中度弾力性は合併によってその作用が1/2近くまで低下する結果、逆に集中度の低下の速度が抑えられるという、好ましい効果が生まれている。つまり神戸港は、大阪港との連携によってコンテナ化率の持つ機能が低下し、港湾サ-ビスに対する評価が悪化する見返りとして、コンテナ貨物に対する市場支配力の低下の速度を緩慢にするというプラスの効果を得ているのである。

 

 

 

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