最初にフランスガキの血リンパを位相差で顕微鏡観察を行ったところ、球状を呈する多数の血球が血リンパに浮遊していることが確認された。続いて、ニュートラルレッドとヤーヌスグリーンの混合液を用いて超生体染色を行った後、顕微鏡で観察した結果、血球は大きく2種類に分類できた。すなわち、核を有していることは確認できるが、染色液によって全くあるいはほとんど染色されず細胞質も透明に見えるもの、そして、もう1種類はニュートラルレッドに好染される顆粒を細胞質に含むものである。高槻による詳細な研究(Takatsuki 1934、高槻 1949)と参照した結果、前者は無顆粒球(agranulocyte)、後者は顆粒球(granulocyte)と考えられた。
無顆粒球と分類した血球の間では核の大きさは3─4μmとほぼ同じであるが、細胞全体の大きさは5─18μmと変異が大きかった。顆粒球でも無顆粒球と同様に核の大きさは3─4μmでほとんど同じであった。しかし、細胞質顆粒の大きさと数については変異が大きく、ニュートラルレッドで染色される部分の形や範囲は細胞ごとで異なっていた。細胞全体の大きさは7─14μmであった。血リンパから採取された直後の血球は全て球形であり、大きさは異なるものの形状の違いは明確ではなかった。
しかし、採血5〜10分後になると、多数の仮足を出して変形運動を開始する細胞、細胞質の一端が大きく伸張して変形し、スライドグラスの表面に接着する細胞が観察された。その一方で、形態のほとんど変化しない細胞もみられた。これらの変化する細胞について超生体染色の結果と大きさから比定を試みた。その結果、多数の仮足を出して変形運動を行う細胞は顆粒球の1種であり、また細胞質を大きく伸張する付着性の強い細胞は無顆粒球の中の比較的大型の細胞(10μm以上)であると考えられた。
次いで、スライドグラスの表面に十分伸展させた血球についてメイ─グリュンワルド/ギムザ染色を施して、その形態や細胞内部を観察した。結果として、細胞の形態や染色性は変異が大きく明確に区分できない細胞もみられたが、多くは特徴的な形態を示す3種類の血球群に属するものであった(図(c)-1)。
1つは無顆粒球で細胞質を扁平に大きくあるいは細長く広げて伸展する種類であり、核は不定形であるが、分葉はしていなかった。細胞質の伸展形態も不定であった。そして、この細胞が接着した血球の中で最も数が多かった(図(c)-1A)。
2つめは顆粒球であり、細胞質にメイ─グリュンワルド/ギムザで濃染される顆粒を多数含んでいた。細胞質伸展の形は不定形であるが、多数の仮足を有していて運動性の高いものがみられた。顆粒の数や分布は変異が大きかった(図(c)-1B)。
3つめは細胞質に顆粒ではない液胞状の小胞(vesicle)を含む血球が時期によって高い頻度で観察された。特に、性成熟の進んだ段階である7月、8月の試料で数多く観察された。今回の研究においては、この血球は異なる細胞種ではなく、血球の状態が変化しているものと考えることとした。そして、この状態になる血球は、多くの場合無顆粒球であった(図(c)-1C)。Auffret(1989)はフランスガキ無顆粒球の中で多数の小胞(vesicle)を含む血球に着目して、これを他の無顆粒球と分けて小胞状細胞(vesiclar hemocyte)と名付けるともに、この型の血球が細胞分裂が盛んであると考えられる性成熟期に多く出現することから、顆粒球の幼若型であると考えている。今回観察した細胞もこの小胞状細胞に相当する血球であると考えられる。