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指導基準及び解説作成の目的と使い方

 

FRP船舶の製造に当っては、粉じんの発生し易いガラス繊維基材、有機溶剤を含む不飽和ポリエステル樹脂、過酸化物である硬化剤、工具の洗浄及び樹脂の稀釈に用いる有機溶剤など、従業員の健康及び衛生、工場の防災、近隣への公害に関して、特別の注意を払って取り扱わなければならない多くの原材料を使用する。そのためにこれらの原材料の取り扱いについてはすべて労働安全衛生、消防及び環境保全のための法的規制を受けている。

FRP造船の分野ではその成形品が非常に大形であり、かつ船舶の受注形態の特殊性によって機械的な成形方法を採用できないため、オープンモールドを使用したハンドレイアップ法又はスプレーアップ法によらざるを得ない。FRP船の成形に当っては、従業員は常時成形型の内部で作業に従事し、また船殻内部などの密閉された狭い所で作業せざるを得ないことが多い。また組立工程や艤装工程ではサンディングによる粉じんの発生が避けられない。したがって、FRP造船所の現場の環境は、その作業内容、作業量、従業員数に応じた適切な管理を実施しない場合には、作業者の健康に対して有害なものとなり得るのである。極論言すれば適切な作業管理が行われていないFRP船工作現場の作業員は常に有毒物、有毒物に周辺を取り囲まれている状況にあるということである。

また、成形作業場内をきれいにしようとしてこの有毒なガスや汚れた空気をそのまま屋外に排出したり、産業廃棄物を無計画に投棄すると公害問題をひき起こし、地域住民の苦情がこじれると企業の存立まで危うくなる。したがってFRP造船業の職場の労働安全衛生と環境保全の課題は表裏一体となっていることを銘記しなければならない。

この指導基準はFRP造船業における他企業とは異なる実態を念頭において作成したものであり、どのような管理体制であるべきか、また、どのような工場設備を設け、どのような作業基準を守るべきかを示すことにより、従業員の安全衛生を確保し、工場の災害を防止し、公害をなくするにはどうすればよいのかの指針となるものである。また解説は基準本文をわかり易く説明するとともに、一部には関係法令の条項と必要な参考資料を挙げているので、使用に当っては基準本文とともによく読んで、正確に理解してもらいたい。

この指導基準及び解説は昭和53年度に中部運輸局の指導のもとに(社)東海小船工が作成したものを原案とし、これを昭和54、55の両年度にわたって(財)小船工が各地のFRP造船所の実態を調査し、運輸省の指導のもとに全国版に書き改めたものである。

以降、安全衛生・環境に関する社会情勢の変化に対応して、法規制の整備が進み本基準の改定が必要となったため、平成9年度に小船工のFRP船指導書作成分科会において全面的な見直しを行い改定したものである。

なお、関連法規については、最新のものを引用してあるが、これら法規は遂次改正されるものであり、また地方自治体で細部を規制している場合もあるので、本使用基準の使用に当ってはこの点に留意されたい。

 

本基準書の巻末に、従業員数50人未満の事業場を対象とし、モデルA(40人)及びモデルB(10人)の2種類の事業場を想定して、具体的に指導の要領を示した「指導要領」を設けてある。

中小FRP造船業は大規模事業場に比し、おのずと規模に応じ省略した対応を講ずることが出来るが、いずれの場合も基本となる基準に沿っているものである。

この「指導要領」において何らかの疑義の生じた場合等、基準書本文に立ち戻って参照し対応処置されたい。

 

 

 

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