はじめに
生物は海で誕生し、海と陸上に広がり、多様になっていきました。本来豊かであるはずの海が、今では廃棄物や有害な化学物質の最終到達地となって、危機にさらされています。
人間活動による環境負荷の増大、森林の減少と荒廃などの自然破壊は、陸上のみならず海にも悪影響を及ぼしています。多種多様で多くの海洋生物を育んできた川からの栄養は、そのバランスが崩れ、ミネラル不足による生物生産力の低下、富栄養化が原因となる赤潮や青潮などによる魚介類の大量死など、海の生物の受難を増大させています。また、廃棄物や有害化学物質の排出による悪影響も複雑化する一方です。
近年、水質改善への努力が、各地でその勢いを増しつつあります。平成8年、国連海洋法条約の発効ならびに待望されていた「海の日」が国民の休日となったこと、また、地球温暖化と海との関係の議論も活発になってきたことなどにより、今、国民全般の海に対する関心が高まっています。
この時期に海洋汚染問題を、農地や都市からの排水や森林利用などの陸域起因、ナホトカ号による重油流出事故や養殖による栄養バランスの崩壊などの海洋起因、双方の視点からあらためて現状を把握し、その対策を講ずることが、豊かな海洋環境の実現に必要です。
そこで、海洋汚染防止の必要性を広く一般に普及啓発するため、「陸域起因 海洋汚染防止推進シンポジウム」を全国6ヶ所(北海道札幌市、福岡県福岡市、宮城県仙台市、愛媛県松山市、兵庫県神戸市、東京都)で開催しました。
研究者、農・漁業者、市民活動家、ジャーナリストなどの多様な講師の皆様、行政や様々な産業に携わる方々からはじめてこのようなシンポジウムに参加された方々まで、幅広い参加者の皆様、そして、各地で色々な形でご協力いただいた皆様に支えられ、各開催地の特色を出すことができたと思います。シンポジウムの成果を多くの方と共有し、海洋環境を豊かにしていく方策を探り、その実現を進めていけるよう、シンポジウムの内容をまとめました。シンポジウム同様、様々な方々にご活用いただければ幸いです。
このシンポジウムは日本財団の補助を受け、(社)自然資源保全協会が主催しました。
(社)自然資源保全協会は、自然資源を保全しつつ、つまり、自然の復元力がカバーできる範囲内で、これを合理的かつ持続的に利用していくことを目的として平成5年に設立され、環境問題などに関するシンポジウム、国際会議の開催などの活動をしてきた民間の環境保全団体です。
今後も海洋をふくめ、環境保全につながることを願って活動してまいります。報告書へのご意見・ご感想など、ぜひお聞かせくださいますようお願い申し上げます。
平成11年3月
社団法人 自然資源保全協会
理事長 米澤邦男