(2)低温始動時(離岸時)の吸着剤の効果の試算
本研究開発で低温排出時のNOxを除去するために吸着剤に求められる吸着量の検討を行った。また、本研究が達成された場合にどの程度の効果が期待できるのかについても検討を行った。現在検討されているアンモニア選択還元触媒の性能との比較から、理想的な触媒システムが従来型触媒に対してどの程度の効果が見込まれるかの試算結果を下記に示す。
尚、前述した小型内航船の排気ガス組成、温度変化の調査結果に基づき、内航船の一航海に以下のような前提条件を設定し検討を行った。特に下記の条件を設定するに際しては、図2.2-3の実測値を参考にした。
アイドリング時は負荷がかかっていないので、低回転であるが、一般的にはNOx値はそれほど高くなく1,000ppm程度と見積もられる。また、排出ガス量は100%負荷の1/6〜1/7程度である。
1)一航海時間を180分間として、運転始動時および初期アイドリング10分間は触媒層温度は100℃とする。
2)初期20分間で触媒温度が300℃まで到達し、300℃からは従来の選択還元触媒によるNOxの除去が可能であるとする。
3)排出NOx量は始動アイドリング時=1,000ppm、離岸〜定常時=2,000ppm、定常時=1,500ppm、排ガスの単位時間当たりの総排出速度(あるいは量)は(定常時)=(アイドリング時)× 6 と仮定する。また、離岸〜定常時では排出速度の平均値は定常時の0.75倍でNOx濃度は2,000ppmとする。
4)従来型脱硝触媒の定常運転時のNOx除去率=90%、吸着剤の初期の吸着能力=100%が達成されたと仮定する。
この場合、図2.3-4に示したように、従来型では触媒が充分加熱されるまで脱硝はできないため、初期のNOxは全て排出される。したがって定常時の脱硝率は90%であったとしても3時間の航海における総排出量からの脱硝率は79%に低下する。これと比較して、初期に排出されるNOxが全て吸着除去できたと仮定すると3時間の航海では除去率は91%となる。また、総NOx排出量は、従来型と比較して58%のNOxの排出の低減が期待できる。