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3.7 海水導電率の向上調査

電磁推進船の推進効率を改善するため、海水の導電率を向上させることが検討されている。海水の導電率を高めるためには、海水中のイオンを増加させること、またはイオンの移動性向を高めることが基本的に必要である[1]。海水中のイオンを増加させる具体的な方法の例として、電子線、レーザー、X線などのエネルギーを利用する方法が紹介されているが、これらのエネルギー量がイオンの増加により節約されるエネルギー量に比べ遙かに大きく、魚雷への適用を想定した電磁推進ではシステム効率がむしろ3桁低下すると指摘している。また、海水の温度を上げてイオンの移動性向を高めることにより導電率を向上させる方法も採り上げられている。図3.7.1に温度0〜24℃における海水導電率を示す。しかし、これも温度を上げるためのエネルギーが膨大となり、効率向上のための現実的な方法ではないと評価された。金属の欠片または粒を添加する方法は追加エネルギーを必要としないが、混合割合が1に近くならないと効果が小さい。海水導電率を高めるために最も有望な方法は電解液の添加であり、これは海水中のイオンを増加させると共にイオンの移動性向を高めることも可能である。電解質の候補としては、海水中にすでに存在しているものとしてNaClがあるが、少量で導電率を向上させるという観点からはHClやNaOHが優れているということが示された。図3.7.2はHCl、NaClおよびAlの混合割合に対する導電率向上ファクターである。

海水に添加する電解質としてH2So4、HCl、NaOHの比較が行われている[2][3]。これらを海水に2%まで混合したときの導電率が図3.7.3に示されている。この例では、H2So4の添加による導電率向上の効果が大きいことが示されているが、保存圧力が高い場合にはHClの方が優れるというコメントがあった。また、電解質の添加は量に制限があることから淡水域での航行や一時的な出力増加という目的に適していること、電極および噴射液に接触する部分に耐蝕性の必要なことも述べられている。

 

[1]Young C. "Conductivity enhancement of seawater", AD Rep. AD-A-226192, pp.285-320 (1990)

[2]T.F.Lin, "Consideration of sea water conductivity enhancement for electromagnetic thrusters", Intersoc. Energy Convers Eng. Conf. Vol.25 No.5, pp.552-556 (1990)

[3]J.Gilbert, et al, "Seawater conductivity enhancement by acid seeding for magnethydrodynamic propulsion", Pap. Am. Inst. Aeronaut Astronaut, AIAA-91-2449, (1991)

 

 

 

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