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おはなし

山おくの、ジロベエ谷に、いっぷう変わったカラスがすんでいた。羽の色が赤茶けているので、なかまのカラスたちからは、「赤ガラス、赤ガラス」と、バカにされていた。
村は何十年ぶりの日照りで、野も山も真っ白けだった。
ジロべエ谷のカラスたちも、食べものがなくなって餓死寸前だったが、嫌われ者の、赤ガラスだけは元気いっぱい!あちこちから食えそうなものを盗んできた。

 

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「さア、だれだ!こったらチンケな羽したトリつかって、おらンとこのいはいぬすませたやつは・・・・・・?」

しかし、長老ガラスのカンベエどんは、そんな盗人ガラスの世話になるのが嫌で、赤ガラス一羽を残し、仲間のカラスをつれて飛び去ってしまった。
ひとりぼっちになった赤ガラスが、ある日、フエフキ峠の方へ飛んで行くと、めったに人のこないお堂に、あずきもちがお供えしてあるのがみえた。
−ほッ、しめた!お堂の前にまいおりて、さて、食おうかと、ロをアングリあけたら、
「神さま、待ってただヨ」と、ちっこい女の子が顔をだした。
この子はシカといって九つだ。

 

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「おっ死んでも、平気だや。あら、おまえさまみたいなカラスにうまれかわるもん。」

 

赤ガラスは、目をしろくろさせた。自分が神様だとは・・・・・・。
「食ってけれ、神さま。おらの餅くって、おらの願い聞いてけれ」
−ねがいだと!?
シカに出会った赤ガラスの心に、何かがおこりはじめた・・・・・・。

 

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「シカ、みろや、おらの田んぼに、水がきたと!ひゃア、キャラキャラ、わらってるみてえだ!」

 

演出のことば

熊井宏之

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打合せ中の熊井宏之氏(右)とさねとうあきら氏(左)

 

考えてみると、カラスというのは、ほんとに気のどくな鳥だ。どうしてあゝ人にきらわれるんだろう。
もしかしたら、あのまっ黒な羽(はね)のせいかもなしれない。カアカアって、あのいやな鳴き声のせいだろうか。それに、けっこう力持ちでらんぼう者(もの)で、悪(わる)ぢえもはたらきそうだ。とにかく、カラスは、鳥のなかでいちばんのきらわれ者(もの)だ。
そのきらわれ者(もの)のカラスたちの仲間(なかま)うちで、仲間(なかま)のみんなにきらわれている、とびっきり気のどくなカラスがいる。きっと、羽がみんなみたいにまっ黒じゃなくて、赤茶けているからだろう。それが、この劇(げき)の主人公(しゅじんこう)、赤ガラスだ。
赤ガラスは、カラスたちからも仲間(なかま)はずれにされてしまった。それでも平気だ。どしどし盗みもはたらくし、元気いっぱいだ。このお芝居(しばい)は、そんな赤ガラスが、とうとう村の大明神(だいみょうじん)になってしまうという、ふしぎな、おもしろいお話です。そのわけが知りたかったら、ぜひ、お芝居(しばい)をみてください。
でもその前に、少しだけ秘密(ひみつ)をお教えしますと、これは、作者(さくしゃ)のさねとうあきらさんが「地べたっこさま」から聞いたお話なんだそうです。私たちが毎日(まいにち)、歩いたり走ったり寝ころがったりしているこの地面(じめん)、そこには、たくさんの生きものたちの、喜びや悲しみや嘆(なげ)きやらの声がいっぱいつまっているんだそうです。私たちの、耳じゃなくて心で聞いていると、そんな「地べたっこさま」の声が聞こえてくると、さねとうさんは言うんです。
ほんとうでしようか?
それは、どんな声なんでしょうか?私たちも、そんな声を聞きたくて、いま、稽古(けいこ)をはじめたところです。みなさんのなかで、そんな声を聞きたいなとおもった人は、ぜひこの劇(げき)をみにきてください。お待ちしています。

 

 

 

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