第1章 バックパッカーの出現
第1節 バックパッカー出現までのプロセス
バックパッカーという単語を耳にしたとき、まず最初にどの様なイメージを思い描くであろうか。ある人はヒッピーと同じではないのか、または単に大きなリュックサックを背負って貧乏旅行している者ではないのかという返事が返ってくるのが大半である。要するにあまり好ましくない、貧乏で時に麻薬のにおいさえ漂わせるような経済的・社会的・環境的メリットの見いだせない社会のアウトロー達であると思われているが、その一方である種の羨望が注がれる対象であるかもしれない。
その様なバックパッカーが1980年代において注目され始め、今日に至っては『日本人旅行者より「おいしい」マーケット』*1として雑誌に特集をくまれるほどであり、若者の間においてはブーム*2にさえなってしまうほどである。しかしこのような社会現象にまでなっているバックパッカーをきちんと把握するのはおろか、かなりマイナスのイメージでもって、その姿が固められているのが現状である。
*1 『WEEKLY TRAVEL JOURNEL』、「日本人旅行者よりおいしいマーケット?」、1993年7月19日号、12ページ。
*2 『Asahi Shimbun Weekly AERA』、「若者は放浪をめざす」、1996年11月18日号、34-36ページ。
しかしこのように暖昧にとらえられるのも無理はない。なぜならバックパッカーの出現に至るプロセスを辿ると、そのルーツにはヒッピーや長期低予算旅行者などさまざまな要素が見え隠れするからである。ではどの様なプロセスを辿っているのだろうか。
第2節 第一動機(グランド・ツアー:grand tour)
観光の始まりといわれているのは、16世紀におけるグランド・ツアーである。このグランド・ツアーは学校教育を終了した者が更なる哲学的思考・世界観社会観に対する視野を広げる留学の旅であり、また子供から大人への通過点でもあった。